勝利の秘訣は動じない心。弱冠12歳の長谷川瑞穂に軍配「第2回マイナビスケートボード日本OPEN」女子パーク
2023年4月12日(水)~16日(日)の4日間にわたり茨城県笠間市ムラサキパークかさまで開催された第2回スケートボード日本OPEN。パーク種目の決勝はストリート種目が終わり、お昼時に差し掛かる暖かい陽気の中で開催され、パーク種目特有の観客と選手たちが一緒になって応援する空気感も相まって和やかな雰囲気で大会が進行していった。
雨天の影響で決勝戦が延期になり1日インターバルをおいての開催となり、選手たちのとってイレギュラーな条件の下、普段以上にメンタル面の負荷も掛かる中で、いかに自分のライディングを正確にメイクできるかが勝利を決定づける一番の要素になったと思えた。
なぜならこのパーク種目のフォーマットは45秒のラン3本のうちのベストスコア採用システムで、ライディング中に転倒すると残り時間関係なくその場でランが終了となるシビアなルールだからである。
今回はそんな大会の中で観客と他の選手たちの声援を背に自分たちのライディングにコミットする姿で印象に残った選手の走りをフィーチャーした。
大会レポート
しっかり1本目から決めてくる強さ
今回の決勝のラン1本目では全体的にミスが続きフルメイクができない選手が多い中、安定的なライディングを見せたのは近年「X Games」にも参戦しており来月の「X Games Chiba 2023」への出場が決まっている藤井雪凛。「ボーンレス」を始め、ボルケーノセクションでの「360テールグラブ」をメイクし、その後も丁寧にライディングをまとめフルメイクでランを終えた。他の選手のミスの流れにつられずにしっかり1本決めてくるところに実力者の力を感じた。
また一方で印象強いライディングを見せたのは貝原あさひ。バーチカル種目を主戦場とする彼女だが、その強みを最大限活かしたハイエアーと共に繰り出されるトリック「マドンナ」で会場を盛り上げた。その後も「アリーウープ・ノーズブラント」を制限時間ギリギリにメイクし、暫定1位の57.30ptをマークした。
自分を貫き通したライディング
ラン2本目で1本目のミスを大幅に改善してきたのが菅原芽依。ひときわ大きな声援に背中を押されてライディングをスタートした彼女は1本目で失敗した「トランスファー・テールフィッシュグラブ」を見事メイクし、ライディング中に小さくガッツポーズ。その後も「バックサイド・スミスグラインド」、「ジュードーエアー」など組み込みながら1本目の悔しさを跳ね除けるフルメイクで会場を沸かせた。
そしてもう一人、再度触れておきたいのが1本目より得点を押し上げた藤井。1本目では比較的終盤では丁寧にまとめていくようなライディングをした彼女が、2本目では全体的にスピードを上げてフローを意識した滑り。その中でも最後にボルケーノセクションでメイクした高難度トリック「キックフリップ・インディー」は彼女のスコアアップに貢献する見事な完成度だった。ライディング後もどこか冷静な表情だったことからこうなることも予定通りだったように感じられた。
今回の決勝で交錯した二つの真逆の感情
個人的にはラン3本目にも大きなドラマが垣間見れた。そこで本決勝を通じて真逆の感情を経験したであろう二人の選手にフォーカスしたい。
一人目が溝手優月だ。準決勝を3位で通過し入賞圏内に入っていた彼女だが、実はこの決勝では一度もフルメイクすることができなかった。どのランでも「トランスファー・フロントリップスライド」や「ノーズ・グラインド」など優勝争いに関わるほどのトリックをメイクしていたが、1本のランとしてはフルメイクできず、ライディング後にはその悔しい思いがどの選手よりも溢れ出ていた。次回以降では笑顔で結果を残す姿を期待したい。
そして一方でラン3本目にして本決勝で一番のライディングを見せたのが今大会最年長22歳の実力者である小川希花。小川は全ての決勝ランを通してとあるトリックのメイクにこだわっていた。それがボルケーノセクションでの「キックフリップ・インディー」だ。
1本目と2本目ともに順調にライディングを進めていたものの、このトリックだけがメイクできずにいた。そんな中で迎えた3本目の最終ランにて「キックフリップ・インディー」を見事メイク。その瞬間、会場は選手と観客も一緒になりその日一番の歓声が沸いた。惜しくも入賞は逃したがずっとメイクしたかったトリックを一番難しい場面で決めたことは喜びもひとしおだろう。ライディング後の彼女の顔には安堵の表情が見られた。
優勝を決めたのは一貫してブレない心
本決勝で最後にもちろん外すことができないのが長谷川瑞穂が優勝を決めた瞬間だろう。実は全てのランをフルメイクして、ランを重ねるごとに得点を伸ばしていったのは長谷川ただ一人なのだ。
最終ランの時にそんな長谷川の前に立ちはだかっていたのはハイエアーと高難度トリックのフルメイクを2本とも決めていた貝原だった。優勝か準優勝かを左右する最後のランで貝原を上回るために長谷川が用意していたのが「フィンガーフリップ・フロントサイドテールスライド」だった。
ラン2本目までの時点でも「バックサイド・スミススライド」やボルケーノセクションでの「キックフリップ・インディー」など高難度トリックを見事にメイクしていたが、最後3本目で2本目と同等のトリックに加えて本決勝ではトライしていなかった技を最後の最後に本番一発で決めてくるところに長谷川のメンタルの強さを感じた。そんな長谷川のパーフェクトランを超えるために貝原も更に高いエアーでの「マドンナ」を最終3本目でトライしたがプレッシャーもあったのかメイクには繋げられなかった。
長谷川は自分の優勝が決まった瞬間の喜びを「バチくそ嬉しい」と表現するも、その後の「今の思いを誰に伝えたいか?」という質問には動揺。スケートボードを降りたら弱冠12歳の普通の女の子であるというギャップも感じさせてくれた。
その後編集部が独自にインタビューさせてもらったところ、当方が注目していた雨天延期による1日インターバルについても「インターバル無しで続けていても気持ちは変わらなかったが一日空いたことで身体も回復出来た事は良かった」と話し、平常心だったことも彼女のメンタルの強さなのだと感じられた。
まとめ
今大会では全体を通して感じたことは、いかにメンタルをコントロールしながら自分のライディングにコミットできるかが勝敗に繋がる糸口になるということ。今回は惜しくも望むようなパフォーマンスにならなかった能勢想と武田星の両名の活躍も今後は期待したい。
また同時に感じたことはトリックの難易度はもちろん、ハイエアーも得点対象に大きく関わるということだ。海外選手たちはハイエアーをベースに高難度トリックを組み合わせることが主流のため、世界基準に合わせた採点システムにシフトしているのだろう。是非次回は選手たちがスタイルを出しハイエアーを取り入れた高難度トリックをフルメイクしていく姿が見られることを期待したいと思う。
今大会でも各ライディングごとにお互いを称え合い、グータッチやハグし合う姿には東京五輪でのあの一コマを彷彿とさせ、改めてスケートボードの魅力を感じることができた。今後も彼らのパフォーマンスはもちろんだが選手たちの思いやコミュニケーションにも注目していきたい。
大会結果
優勝 長谷川 瑞穂(ハセガワ・ミズホ) / 59.38pt
準優勝 貝原 あさひ(カイハラ・アサヒ) / 57.57pt
第3位 藤井 雪凛(フジイ・ユリン) / 56.25pt
第4位 小川 希花(オガワ・キハナ) / 55.42pt
第5位 溝手 優月(ミゾテ・ユズキ) / 53.68pt
第6位 菅原 芽依(スガハラ・メイ) / 46.21pt
第7位 能勢 想(ノセ・ココロ) / 44.05pt
第8位 武田 星(タケダ・アカリ) / 43.26pt
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