念願の初優勝を手にした若き苦労人「第2回マイナビスケートボード日本OPEN」男子ストリート | CURRENT

念願の初優勝を手にした若き苦労人「第2回マイナビスケートボード日本OPEN」男子ストリート

| 2023.04.19
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長井太雅のライディング photograph by Yoshio Yoshida

今回の男子ストリート決勝を通して感じたのは「トレンドの変化と競技スタイルの多様性」。2023年4月12日(水)~16日(日)に計4日間に渡って茨城県笠間市ムラサキパークかさまにて開催された第2回スケートボード日本OPEN。

雨天の影響で決勝戦が延期し1日のインターバルをおいた後の開催になった今大会。様々な要因が重なり、普段の大会とは全く異なる条件での戦いとなったのは選手たちはおろか観客にとっても明白だっただろう。

池田大暉のライディング photograph by Yoshio Yoshida

そんな今大会の決勝は結果ベースの勝敗の判断だけでは正直もったいない、選手同士の色々な思いと戦略が交錯する様子が垣間見れた大会で、特に観戦している側にとっても観ていて終始ハラハラするようなおもしろい一戦だったのではと感じている。

今大会で特に我々が注目したのが競技中の選手たち一人一人の表情や戦略の部分。実はコース横で選手たちを見ていると非常に興味深い会話や競技中の作戦変更がなされていたことが見えてきた。今回はその中でも特に興味深かったポイントを本記事では触れたいと思う。

大会レポート

本決勝は雨天の影響もあり準決勝から1日インターバルを空けての開催になったことは前述の通りだが、当日は午後から再度天候の悪化が見込まれていたためスケジュールがかなり前倒しになっており、いつもの大会よりも早い開始時間や比較的短く設定された休憩時間は選手たちにとってもタイトだったのではと感じられた。

それを裏付けるものとして練習時の選手たちはパフォーマンスをあげるのに苦労している印象があった。

藪下桃平のライディング photograph by Yoshio Yoshida

そんな中で最初に競われたランでは全体的に見てもほとんどの選手が1本目より2本目の方が得点も高いという結果。パリ五輪選考大会から施行されたラン絶対採用のルール変更もあり、1本目を上回るためには2本目でのミスが許せない中で2本目でしっかり決めてくるメンタルの強さや熟練度に脱帽だった。

そして今回の決勝で大きなドラマがあったのがベストトリックだ。選手によって戦い方が千差万別で最後まで誰が勝つか分からない非常に興味深い展開だった。

新たな競技トレンドの開拓者

ベストトリックの中でひときわ異彩を放っていたのが山附明夢。準決勝と決勝共にコース中心にあるハンドレールを使った大型トリックは取り入れず、レッジを活用したトリックを展開。ベストトリック1本目では「ノーリーアリウープ・ベネットグラインド 」というあまり他の選手がやらないようなトリックをチョイス。86.08ptをマークした。

山附明夢のライディング photograph by Yoshio Yoshida

決勝では本人も「足が上がらない」と言っており、3本トライするもメイクできなかったアップレッジでの「バックサイドクルックグラインド・トゥ・ヒールフリップアウト」を、準決勝でメイクした時は93.69ptを叩き出したことで高い技術を織り込んだ他の選手がやっていないトリックが大会においても高い評価を受けることが実証された。

以前のSLSでブラジルのカルロス・リベイロが今回の山附と同様なトリックをメイクして9クラブをマークしたことから、世界的にもこのようなスタイルが評価され始めている。今大会での山附のライディングは間違いなく色んな選手にアイデアを与えたことだろう。まさに新たな競技トレンドの開拓者だ。

完全なる作戦勝ち。さすがの判断力。

X Games Chiba 2022での銀メダル獲得が記憶に新しい池田大暉が最初にメイクしたのはランでも高い精度でメイクしていた「キャバレリアル・バックサイドテールスライド」。しかし得点は87.65ptと思ったほど伸びなかった。

松本浬璃のライディング photograph by Yoshio Yoshida

その後、松本浬璃がメイクした飛距離のある「トランスファー・バックサイドリップスライド」に87.47ptが付いたことから、「あのトリックであの得点が付くなら俺もやる」と観客側にいた関係者に声を漏らし、実際に3本目では自身の3位を確実にする「トランスファー・フロントサイドフィーブルグラインド」をメイク。決勝での自身最高得点90.11ptをマークした。

池田大暉のライディング photograph by Yoshio Yoshida

この大会で池田の戦い方から「どこで得点出るかを見極めて、 すぐプラン変更できる」という洞察力と判断力、それを実行出来る高いスキルを感じ、彼が世界で活躍する理由を改めてうなづくことができた。今後世界を目指す選手たちにとっても必要な要素となるだろう。

最終的には周りに振り回されずひっくり返す

一方、準決勝1位通過で決勝に駒を進めた佐々木音憧にとっては厳しい戦いを強いられた展開だったであろう。ランでは2本とも90点台といった文句なしの試合展開でベストトリックを迎えたが、1本目の「ビガーフリップ・フロントサイドボードスライド」で83.92ptを出してから、2本目から4本目まで「ノーリーヒールフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイクに連続で失敗し、前半には確保できていたリードを失い追い込まれる展開に。

ライディング後には「このコースは心臓に悪い」や「しんどい」などと口にしている様子も見られ、コースレイアウトへの提言も然り、準決勝1位通過のプレッシャーも感じていたのかもしれない。

佐々木音憧のライディング photograph by Yoshio Yoshida

そんな入賞がかかった緊張の最後の5本目で見事「ノーリーヒールフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイク。メイクした瞬間には自身も思わず喜ぶ素振りを見せ、それを見た他の選手たちが佐々木のもとに駆け寄りトリックの成功を称えていた。この結果により佐々木は準優勝の座を獲得した。

佐々木来夢のライディング photograph by Yoshio Yoshida

一方で兄の佐々木来夢も確実にメイクできれば優勝できるトリックを多く持っている実力者だが、今回は思うような試合展開に運ぶことは残念ながら叶わなかった。しかしベストトリック3本目で魅せた「スイッチフロントサイドテールスライド」は圧巻だった。今後の彼の優勝争いに期待したい。

若き苦労人を優勝に導いた恵みの雨

長井太雅のライディング photograph by Yoshio Yoshida

そしてそんな群雄割拠の決勝戦を見事制したのは長井太雅。ランでは2本目で「ビッグスピン・ノーズブラントショービットアウト」を始めとした高難度トリックでライディングをまとめ93.66ptとラン最高得点をマークしたが、ベストトリックでは2本目で「バックサイド270テールブランド」メイクし90.56ptを叩き出すも、3本目で「ビッグスピン・ハリケーングラインド」のメイクに苦戦。

4本目ではトラックが掛からず「ビッグスピン・フロントボードスライド」になってしまうもパリ五輪選考大会からの新ルールとなった自己申告で得点をつけないという判断は、ラスト1本と後がない中でもこの大技成功への自信が垣間見えた。そして見事5本目で「ビッグスピン・ハリケーングラインド」をメイクしてみせ、このトリックの93.85ptが決勝点となり優勝を勝ち取った。

長井太雅のライディング photograph by Yoshio Yoshida

そして実は今回の優勝に長井がかけた思いには特別なものがあった。以前から大事な大会の前は特に怪我が絶えなかったた若き苦労人である彼。今回の準決勝の時点でも身体を痛めていたようだ。CURRENT編集部は独自にインタビューを敢行。彼は会場では話していなかった胸の内をこのように話した。

「実は準決勝で身体を痛めていました。でも今回雨天延期のおかげで1日空いて回復する時間がとれたので決勝は攻めることができました。以前の笠間の大会は天候による決勝中止でギリギリ日本代表入りを逃したので今回は特に勝ちたいという思いが強かったです。」

自分の満足のいくライディングに仲間たちとグータッチをする長井太雅 photograph by Yoshio Yoshida

実は選手たちにとってイレギュラーな出来事で望んでいなかった雨天延期が長井にとっては恵みの雨だったのだ。そんな彼の優勝決まった瞬間には表情はホッとした様子で今までの悔しい思いが晴れたことを感じさせる笑顔であった。

まとめ

非常に多くのドラマとスケートボードストリート種目の変化を目の当たりにした今大会だったが、選手一人一人の人間模様を垣間見ることができて今まで以上に観戦している側としても選手たちに没入感を得ながら楽しむことができた大会だった。今大会最年少で弱冠11歳の酒井太陽が世界最高峰で戦う選手に食らいつく姿にも心動かされるものがあった。

是非今後は選手たちのハイレベルなトリックやパフォーマンスに加えて、もう一段階踏み込んでスケートボードを楽しむために、選手たちそれぞれが持つ大会に向けての背景やパーソナリティにも注目してもらえると幸いだ。

大会結果

左から佐々木、長井、池田の順 photograph by Yoshio Yoshida

優勝 長井 太雅(ナガイ・タイガ) / 278.07pt
準優勝 佐々木 音憧(ササキ・トワ) / 271.23pt
第3位 池田 大暉(イケダ・ダイキ) / 266.93pt 
第4位 松本 浬璃(マツモト・カイリ) / 233.02pt 
第5位 藪下 桃平(ヤブシタ・モモヘイ) / 222.24pt 
第6位 山附 明夢(ヤマズキ・アイム) / 219.04pt
第7位 佐々木 来夢(ササキ・ライム) / 215.98pt 
第8位 酒井 太陽(サカイ・タイヨウ) / 159.11pt

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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