勝敗を決めたのは土壇場のメンタルの強さ「第2回マイナビスケートボード日本OPEN」女子ストリート | CURRENT

勝敗を決めたのは土壇場のメンタルの強さ「第2回マイナビスケートボード日本OPEN」女子ストリート

| 2023.04.18
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藤澤虹々可のライディング photograph by Yoshio Yoshida

2023年4月12日(水)~16日(日)に渡って茨城県笠間市ムラサキパークかさまで開催された第2回スケートボード日本OPEN。女子ストリート決勝は選手たちのメンタル強さが特に試された一戦となった。

雨天の影響で決勝戦が予定どおり開催できず1日インターバルをおいての開催となった今大会。普段のプレッシャーに加えてイレギュラーな要因も重なり、更にメンタル面の負荷も掛かる中で他の選手に翻弄されず自分のトリックを決め切ることが順位を左右したようにに思えた。

大会スケジュールとしては16日の決勝日最初のプログラムとなった女子ストリート決勝。朝8時半という早い時間に設けられた練習時間では選手たちがそれぞれ自分たちのトリックや身体の調子を確かめる様子が見て取れた。

松本雪聖のライディング photograph by Yoshio Yoshida

特に印象的だったのは準決勝1位通過で決勝へ駒を進めた松本雪聖。決勝進出者の中で最年少の11歳である松本は、身体の動きを少しずつ確認し調整していく他のトップ選手たちをよそに早々にピークへ持っていき、父親と入念にコンタクトを取りながら余裕を持って色んなバリエーションのトリックを練習する姿に今大会での活躍を観客に期待させていた。

そんなメンタルタフネスが勝敗を左右する決勝戦。選手たちの各々の仕草とパフォーマンスからノーコミュニケーションの中で繰り広げられた攻防戦を振り返っていこう。

【ラン】

パリ五輪選考大会からルール変更され、取り入れたラン採用フォーマットにより、入賞するためには決勝ランの2本のうち1本は確実に点数を取ることが余儀なくされる中、今回は2本目のランにまとめてくる選手が多い印象だった。

1本目の第一走者となったのは小田切陽依。緊張高まる中ライディングをまとめてほぼフルメイクといった走りでトリックの難易度や構成の影響もあり得点には繋がらなかったが、早速大会の雰囲気作りに一役買ったと言えるだろう。そんな1本目で特に安定感を感じさせたのは東京オリンピック銅メダリストの中山楓奈。丁寧にランをまとめフルメイクし後続にプレッシャーをかける展開に。

伊藤美優のライディング photograph by Yoshio Yoshida

後述することになるのだが、ラン2本目で1本目の得点を超えた選手たちが最終リザルトでも上位に入ってくることから、追い詰められた時に結果を残せるメンタリティがトップ選手に必要な要素であった今回。

特にこのランで印象的だったのが昨年11月の日本選手権で優勝した伊藤美優。1本目では最初にトライしたハンドレールでの「バックサイドリップスライド」のミスが尾を引き、一つもトリックをメイクできず0ptで終えていたが、2本目では1本目でミスした「バックサイドリップスライド」のメイクを皮切りにフルメイク。ラン終了後にはほっと胸を撫で下ろす様子もうかがえメンタルの強さを感じさせた。

【ベストトリック】

大西七海のライディング photograph by Yoshio Yoshida

一方でベストトリックは波乱の展開。前半3本を全てメイクしたのは大西七海ただ一人で、前半で先頭に躍り出たのはさすがはオリンピックメダリストの中山楓奈

中山が決めた2本目の「バックサイド・オーバークルックドグラインド」は72.44ptの評価。またこのトリックは本人が超有名スケートボードマガジンの「スラッシャーマガジン」の表紙にも掲載された際にメイクしており記憶に新しい大技だ。中山のライディングからは、終始どこか様々なトリックの感触を確かめるような様子がうかがえ、今後の世界大会に向けて調整しているように思えた。

中山楓奈のライディング photograph by Yoshio Yoshida

そんな中山に迫るように2本目で高得点を残したのが原田結衣。原田は「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」を着地時にまくられそうになりながらも見事メイクし71.53ptを叩き出した 。大技のメイクから思わず笑顔も溢れていた。

メンタルタフネスが顕著に現れたベストトリックのラスト2本

そして今回の結果に繋がる壮絶なドラマが生まれたのは4本目以降。前半で思うような得点を残せていない選手たちにとってはもう後が無く2本とも決めなければいけないこの状況。

今回最年長での出場となった藤澤虹々可は前半3本ともメイクができず苦しい状況で4本目を迎えたが、ここでメイクしたのが他の選手はトライしていない技ありの「ポップショービット・50-50」。このトリックで70.37ptをマーク。このメイクをきっかけに5本目では見事「フェイキー・バックサイドリップスライド」を成功させ、こちらも69.69ptと高得点。このトリックのスコアが決勝点となり念願の優勝を勝ち取った。

藤澤虹々可のライディング photograph by Yoshio Yoshida

後ほど本人は当時のことを「考えても仕方がないので、ラフにいつも通りやろう」と切り替えたと話し、今回の雨天による1日のインターバルについても「リラックスして過ごせて身体も休められたから良かった。」と経験に裏付けられた見事なメンタルコントロールが今回の勝利を手繰り寄せたのだろう。

優勝が決まった瞬間喜びをあらわにする藤澤 photograph by Yoshio Yoshida

同じく、今大会にて人並みならぬメンタルの強さを感じたのがラン2本目でも見事なライディングを見せた伊藤美優。ベストトリックでも前半3本ともメイクができず後が無い状況だった伊藤は4本目で「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイク。その高い完成度から今大会最高得点の73.99ptを叩き出した。5本目もトリックをメイクしたが得点が伸びず今回は入賞は逃したものの、改めて日本選手権王者の実力を感じることができた。

伊藤美優のライディング photograph by Yoshio Yoshida

一方で今回惜しくも辛酸を舐めることになったのは優勝候補だった松本雪聖。ランでは2本目で71.84ptを叩き出し準決勝同様に大会をリードしていており、完全に彼女の勝利を匂わせていたが、ベストトリックでは1本目以降、他選手の高得点のトリックメイクがプレッシャーとなったか2本目から4本目までミスが続いた。

自分の思う通りにいかないベストトリックのライディングに葛藤しながらも父親と言葉を交わしてメンタルを整える姿も垣間見えた。そして満を持して迎えた優勝が決まる運命の5本目では「キャバレリアル・フロントサイドボードスライド」をメイク。自分の狙っていたトリックをメイクした瞬間には小さくガッツポーズ。その後は両手を合わせながら神にも祈る思いでジャッジの採点を待つ姿に優勝への強い思いが見られた。

結果としては68.14ptと高得点を叩き出すも、藤澤の合計得点にはわずか0コンマ1pt届かず惜しくも優勝を逃す形となった。今後弱冠11歳の彼女がこの悔しさをバネに大会で大活躍し、年上の選手たちを驚かす姿を期待したいと思う。

松本雪聖のライディング photograph by Yoshio Yoshida

まとめ

今大会は大雨の影響で1日インターバルをおいての開催となったりとイレギュラーな要素も多く、決勝戦へいかにしっかり自分のベストの状態を持ってこれるか、また大会中における選手間でのプレッシャーの掛け合いに打ち負けないメンタルタフネスを兼ね備えているかが勝敗を左右したと言っても過言ではない。

どんな状況になっても選手たち全員が最後まで諦めずに勝ちにこだわるメンタリティを持って競技に挑んでいる中で、土壇場で決め切れる経験の差が上位にあがり、ギリギリの勝敗を分けたのだろう。今後もトリックだけではない、大会中の選手たちの心の動きにも注目していきたい。

大会結果

左から松本、藤澤、中山の順 photograph by Yoshio Yoshida

優勝 藤澤 虹々可(フジサワ・ナナカ) / 198.99pt
準優勝 松本 雪聖(マツモト・イブキ) / 198.87pt
第3位 中山 楓奈(ナカヤマ・フウナ) / 189.50pt 
第4位 原田 結衣(ハラダ・ユイ) / 187.61pt 
第5位 伊藤 美優(イトウ・ミユ) / 186.68pt 
第6位 大西 七海(オオニシ・ナナミ) / 153.08pt 
第7位 小田切 陽依(オタギリ・ヒヨリ) / 117.81pt 
第8位 杉本 二湖(スギモト・ニコ) / 48.02pt

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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