「スケートボード・パーク世界選手権2023 in ローマ」日本人選手たちの決め切る力が勝利を手繰り寄せた。 | CURRENT

「スケートボード・パーク世界選手権2023 in ローマ」日本人選手たちの決め切る力が勝利を手繰り寄せた。

| 2023.10.09
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「スケートボード・パーク世界選手権2023」がイタリアのローマ・オスティアにて開催され、現地時間2023年10月8日午後5時15分から女子決勝が行われた。

今大会はもちろんパリオリンピック出場枠獲得において最も大事な大会であることは間違いなく、世界中からトップ選手たちが勢揃いした今回は東京オリンピック金メダリストである四十住さくらが怪我明け初の国際大会として出場、そして同大会銀メダリスト開心那も出場するなど、今年の世界大会の中でもとりわけ重要度が高い大会というのは出場選手の顔ぶれから容易に垣間見れた。一方で東京オリンピック銅メダリストで昨年の世界チャンピオンであるスカイ・ブラウン(イギリス)は怪我により出場を見送った。

決勝は準決勝を勝ち上がった合計8名で競われる形で、日本人選手からは四十住、開に加えて先日のアジア大会で優勝した草木ひなのが勝ち上がった。全体的に10代前半の若手の実力者たちが名を連ねた今大会のスタートリストはリリ・シュテファジウス(ドイツ)、 四十住さくら(日本)、 ミナ・ステス(アメリカ合衆国)、 ルビー・リリー(アメリカ合衆国)、ナイア・ラソ(スペイン)、 ライカ・ベンチュラ(ブラジル)、草木ひなの(日本)、開心那(日本)の順。

そして決勝フォーマットは一人45秒のランを3本滑走した上で自身の最高得点のランが最終スコアとなるベストラン採用方式となった。

今大会のコースは比較的にコンパクトながらスピードが出しやすいような設計。主にスピードを出すスタイルのライダーにとって有利なレイアウトであることから、日本人選手の中ではスピード系の開にとって特に相性が良く、スピードもうまく出しながらトリックを決める草木にとっても条件は良い。一方で四十住は怪我から復帰したばかりということもあり、まだ膝が痛みを引きずっての決勝進出であることから、どのようにライディングを見せるのかも注目となった。

大会レポート

【ラン1本目】

本目では全体的にミスをする選手たちと80点台の得点をマークし順位を争う選手たちで両極端に分かれていた印象。シュテファジウス四十住はミスし得点を伸ばせないでいる中で、コースを大きく使いスピードを付けた攻めのランで84.55ptの80点台を出したのはミナ・ステス。「インディーエアー」や「スミス・ストール」を見せるランで後続の選手たちに勢いをもたらす。

これに続き、ステスの得点を上回ったのがスペインの新鋭であるナイア・ラソ。「フロントサイド・フィーブルグラインド」や「バックサイド・ディザスター」など比較的抑え目のランの中に今大会の初のトリックをスパイスとして仕込むランで86.25ptをマーク。

しかしその80点台争いを更に面白くしたのが、ブラジルのライカ・ベンチュラ。「アリウープ・バックサイド・オーリー」や、ディープエンドでの「フロントサイド・フィーブルグラインド to フェイキー」をメイクしたランが評価され87.59ptをマークした。

だがラン1本目の80点台争いに終止符を打ったのは、日本の開心那。得意のノーズグラインド系のトリックを組み込んだライディングの中に、「クレイルスライド to リバース」などの高難度トリックをメイクしたランでフルメイクし92.08ptという超高得点をマークし大きく優勢に立った。

【ラン2本目】

2本目では各選手が全体的に得点を上げる一方で、攻めのライディングをチョイスしたからかミスを重ねて1本目より得点を上げれられない選手を見受けられた。しかし、そんな中でしっかり強さを見せるランでまとめてきたのが、ステス、草木、開の3名だ。

1本目のランのトリックチョイスをベースにランのクオリティを上げてきたステスは「アリーウープ・バックサイド・スミスグラインド」や、会場を大きく沸かせる今決勝初の「キックフリップ・インディー」を取り入れたランで90.80ptをマークし表彰台に大きく自分の順位を近づけた。

そして次に、1本目のランでのミスを上手くカバーしてきたのが草木ひなの。とりわけトリックが難しい高低差のあるディープエンドセクションでの高難度トリックを見せた草木は、自分の強みである「バックサイド540・テールグラブ」や「バックサイド・スミスグラインド」をメイクし93.20ptをマークし暫定1位の座までジャンプアップした。

しかし、そんな草木のランを見て黙っていないのが。1本目同様に得意のノーズグラインドをハイスピードでライディング中にメイクしながら更にランのクオリティを上げていき、ディープエンドではノーハンドで「キックフリップ」をメイクしたり様々な高難度トリックを組み込んだランでフルメイク。自身のスコアを約2点も更新する94.54ptをマークし再び暫定1位の座を奪還。

【ラン3本目】

そんな展開の中で迎えた3本目。1本目から自分自身と向き合い得点を重ねていたのがドイツのシュテファジウスだ。1本目ではミスがあり76.46ptで終えていたが、2本目では上手く修正しフルメイクで終え82.12ptに。そして3本目では「バックサイド・270」をボルケーノセクションでメイクしたり、大きな「アリウープ・エアー」などをメイクして84.79ptをマークした。彼女は特に今回表彰台争いに加わることはなかったが、決勝という特にプレッシャーの高い緊張感のある場で着実に得点を伸ばしていけたことは選手として評価されるべきだろうと筆者は考えたので言及しておく。

一方で今大会で本調子を出せなかったものの、今後の国際大会に向けて現在の調子を確認している様子が見られたのが 四十住。1本目では早々にトリックミスがあり8.06ptとしていたが、2本目では「バックサイド・360」や「バックサイド・ノーズブランドスライド to バックサイド180・リバース」をメイクするなど彼女らしさを取り戻す様子も見られた。そして3本目では「バックサイド・ヒールフリップ・インディー」にもトライし、ラン終了後には手応えを感じるような表情も垣間見られた。

シュテファジウスと 四十住の後にライディングした各選手たちの中にも暫定トップ3を超える得点を叩き出す選手は現れず、第6滑走者となったベンチュラがランを終えた時点で、暫定3位だったステス3位入賞が決定。世界選手権での3位という好成績にチームや仲間と大きく声を上げながら喜ぶ様子も見られた。

その後は草木と開の1位2位争いとなったが、先にライディングした草木が最初のトリックで失敗。この時点で開の世界選手権優勝が決定した。草木も自身のラン終了後に開に駆け寄り喜びを分かち合いハグをする様子も垣間見れた。開はその後ウィニングランではあったものの最後まで攻めのライディングを見せたが終盤トリックを失敗。2本目の得点である94.54ptをベストスコアとして今年の世界チャンピオンの座を獲得した。

【大会結果】

優勝 開心那(日本)94.54pt
2位 草木ひなの(日本)93.20pt
3位 ミナ・ステス(アメリカ合衆国)90.80pt

4位 ライカ・ベンチュラ(ブラジル)87.59pt
5位 ナイア・ラソ(スペイン)86.25pt
6位 リリ・シュテファジウス(ドイツ)84.79pt
7位 ルビー・リリー(アメリカ合衆国)84.40pt
8位 四十住さくら(日本)83.53pt

最後に

筆者が今大会を通して一番に感じたのは草木が持つ、ここぞの場面で決め切る力とその力を支えるスキルの高さだ。実際に今大会では各選手のレベル自体にはそこまで大きな乖離はなく、それぞれが高難度トリックを含めて総合的なスキルを持っているのは彼女たちのライディングを見ている中で感じ取れた。

ただそこで試合結果を左右したのは、決勝という大きな緊張感のある中でしっかり大事な場面で決め切ることであり、特に今回表彰台に上がった開、草木、ステスの3名はラン2本目の時点で自分たちの高難度トリックを含め、しっかり勝ちに行くパフォーマンスを発揮できた印象があった。そのため高い技術力やトリックのバリエーションは大前提の中で、そのパフォーマンスをしっかりその場で発揮できるメンタル面の強さが結果を左右したように感じた。

なお、今回の結果を元にかなりパリオリンピック出場枠を手にする日本人選手たちが定まり始めてきたのではと思う。実際に今大会を迎える前での世界ランキングは開(2位)、草木(3位)、四十住(5位)という順であり、今回の世界選手権もこの3名が決勝進出を果たしている。一方で今大会には、小川希花、中村貴咲、菅原芽依、長谷川瑞穂も日本から出場していた。この勢力図を保ったままパリオリンピックを迎えてしまうのかどうかも注目しておきたい。

そして世界全体として見ると、圧倒的に10代前半の超若手世代が育ってきていることも否めない。今回の決勝にいたスペインのナイア・ラソは14歳、前回のアルゼンチン大会で2位だったルビー・トルー(オーストラリア)も14歳、X Games Californiaでパークとバートの両種目で金メダルを取ったアリサ・トルー(オーストラリア)は13歳

個人的には彼女たちが若い年齢で活躍するのはもちろん期待していることだが、それ以上にこういった選手が今後スケートボードシーンを牽引していくことでどんなシーンに成長していくのかは特に注目したいと思う。今後も国内外での女子スケートボードパークシーンに目が離せない。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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