「スケートボード・パーク世界選手権2023 in ローマ」男子決勝は大逆転劇と日本人選手の可能性を感じる一戦 | CURRENT

「スケートボード・パーク世界選手権2023 in ローマ」男子決勝は大逆転劇と日本人選手の可能性を感じる一戦

| 2023.10.10
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「スケートボード・パーク世界選手権2023」がイタリアのローマ・オスティアにて開催され、現地時間2023年10月8日午後6時20分から男子決勝が行われた。

今大会はもちろんパリオリンピック出場枠獲得において最も大事な大会であることは間違いなく、世界中からトップ選手たちが勢揃いしたそして今回はいつもと違う展開。東京オリンピック金メダリストであるキーガン・パーマー(オーストラリア)が練習中の転倒により欠場。また世界大会の優勝候補や決勝常連選手たちが出場しない展開に多くの選手にチャンスが訪れた大会でもあった。とはいえ昨年の世界チャンピオンであるアメリカのジャガー・イートンや、東京オリンピック銀メダリストのペドロ・バロス(ブラジル)など多くのトップ選手が出場しているため、チャンスはあれど入賞はおろか決勝進出までの難易度は何らかわらず、予選から決勝まで熾烈な戦いが繰り広げられた。

そんな決勝では準決勝を勝ち上がった合計8名で競われる形。日本人選手は猪又湊哉、三竹陽大、栗林錬平、笹岡建介が予選敗退を辛酸を舐める結果になった一方で、順調に勝ち進んだ永原悠路が初めて世界選手権の決勝に勝ち上がった。若手からベテランまで誰が勝ってもおかしくないの実力者たちが名を連ねた今大会のスタートリストはキーファー・ウィルソン(オーストラリア)、オウグスト・アキオ(ブラジル)、 ペドロ・バロス(ブラジル)、永原悠路(日本)、テイト・カリュー(アメリカ合衆国)、 ジャガー・イートン(アメリカ合衆国)、ギャビン・ボドガー(アメリカ合衆国)、ルイジ・チニ(ブラジル)の順。

そして決勝フォーマットは女子同様に一人45秒のランを3本滑走した上で自身の最高得点のランが最終スコアとなるベストラン採用方式。

今大会のコースは比較的にコンパクトながらスピードが出しやすいような設計で、スピード系のスタイルを持つライダーにとって有利なレイアウト。事前のインタビューではイートンバロスがコースレイアウトに対して好感触なコメントを残す場面も見られ、スピードやパワーを持ち味とした選手たちにとってはアドバンテージがあることも分かり、それはハイエアーやスピードをひとつの強みとする永原にとっても有利なコースであることからどのように世界最高峰の選手に一矢報いるのか注目となった。

大会レポート

【ラン1本目】

1本目では全体的にミスが多くフルメイクできない選手たちが大勢おり世界選手権の決勝という独特の緊張感を感じられるランとなった。しかしそんな中でまずフルメイクでまとめてきたのは、スケートボードはアートや表現方法であり人生の一部であると語るブラジルのオウグスト・アキオ。その思考を裏付けるかのように多種多様なトリックで繰り広げられたライディングでは「キックフリップ・インディー」や、エクステンションセクションでの「フロントサイド・フィーブルグラインド」を見せて84.50ptをマークした。

アキオに続き、1本目で80点台に乗せるランを見せたのはアメリカのテイト・カリュー。「ハードフリップ・インディーグラブ」からの「バリアル・540」という間髪入れず立て続けに高難度トリックをメイクして86.37ptをマークした。

【ラン2本目】

2本目では1本目でまとめたスコアを残せなかった選手から得点を上げて80点台をマークする選手が出てくる一方で、なかなか得点を上げれられない選手も出てくるなど最後の3本目を前にしてかなり優劣が付き始める展開に。

まず1本目のランのミスを改善して80点台に乗せてきたのはブラジルのペドロ・バロス。1本目では持ち味のスピードを活かすライディングを展開するもそのスピードに持ち堪えられないでいたが、2本目では「ステールフィッシュ・540」や「バリアルキックフリップインディーグラブ」を取り入れたランで、最後のトリックに失敗するも81.07ptをマークした。

そして同じく、1本目のランでのミスを上手くカバーしたのがアメリカのジャガー・イートン。上手く身体をスイッチさせたり、180を取り入れながらトリックの難易度を上げていく様子のイートンは、「バックサイド360インディーグラブ to フェイキー」や「ハーフキャブ・ブラントリバート」を1本目同様に決め、また彼の代名詞である「キックフリップバックサイドリップスライド・コーナー」も見事にメイク。最後はディープエンドでの「ブラントキックフリップ・フェイキー」で締めた。フルメイクで声を上げて喜び姿が見られ、このランは88.33ptの評価を受けた。

また1本目より大きく得点を伸ばしたのはギャビン・ボドガー。ボドガーは「アリウープヒールフリップバックサイド360インディー」や「キャバレリアル・ヒールフリップ・インディー」を決めるも最後のトリックで失敗。それでも85.06ptをマーク。

しかし、彼らの80点台を超える見事のランを2本目で見せたのが1本目で86.37ptをマークしたテイト・カリュー。1本目のライディングの更に上回るクオリティで更に「アリウープ・ヒールフリップ・インディー」やエクステンションでの「アリウープ・テールグラブ540」をメイクし91.34ptと暫定1位の座までジャンプアップした。

【ラン3本目】

優勝及び表彰台の順位を左右する最終局面となった3本目。この回ではドラマチックな大逆転が起きる展開となった。なお今大会にて日本人唯一の決勝進出選手となった永原悠路は、決勝という場による緊張感からか1本目・2本目とミスがあり、ベストスコアを72.76ptの状態で3本目を迎えた。そんなラストランでは自分を奮い立たせるために両手で観客を煽るような仕草を見せてからライディングを始める。

「キックフリップ・インディー」や「フロントサイド・フィーブル」などを豪快にメイクしていくもボルケーノセクションでトライした「バックサイド360・インディー」でスリップダウンし78.68ptで大会を終えた。表彰台獲得にはならなかったが、初めての世界選手権の決勝で攻めのライディングをできたことは彼の今後の競技人生において大きな収穫になったであろう。

そして今大会の大逆転の立役者となったのがボドガー。2本目で85.06ptをマークした彼はそのランを更に上回るライディングを見せる。基本的には2本目と同様に「アリウープ・キックフリップ・インディー」や「キャバレリアル・ヒールフリップ・インディー」、「360・ジュードーエアー」などを組み込んだランを展開。

そしてタイムアップブザーギリギリにメイクした彼のオリジナルトリック「通称:ラウンド・ザ・ワールド(ボディーバリアル to フェイキー)」をメイクし94.03ptをマークし暫定1位に大きくジャンプアップした。まさかのスコアに口を大きく開けて驚く姿も見られた。

そして、そんなボドガーを上回るべくハイレベルなライディングを見せたのが準決勝1位通過のルイジ・チニ(ブラジル)。1本目・2本目とミスが目立ち70点台にくすぶっていた彼が背水の陣で3本目にトライ。「キックフリップ・インディー」や「バックサイド・540」、そして最後に「バックサイド・360フリップ・ステールフィッシュ」をメイクするパーフェクトランを最後の最後に決め切った。ボドガーを超えるスコアも期待されたが結果的には91.40ptとして準優勝。

前回のアルゼンチン大会の優勝者は2大会連続にはならなかったがボドガーに匹敵する大逆転で大会に幕を閉じた。そして今回世界選手権でタイトルを獲得したボドガーは昨年の2月に手首骨折を経験しており、ここまで戻ってくるのは容易では無かったに違いない。そんな中での世界チャンピオンの座の獲得に対してはその喜びもひとしおだろう。

【大会結果】

優勝 ギャビン・ボドガー(アメリカ合衆国)94.03pt
2位 ルイジ・チニ(ブラジル)91.90pt
3位 テイト・カリュー(アメリカ合衆国)91.34pt
4位 ジャガー・イートン(アメリカ合衆国)88.33pt
5位 オウグスト・アキオ(ブラジル)84.50pt
6位 ペドロ・バロス(ブラジル)81.07pt
7位 永原悠路(日本)78.68pt
8位 キーファー・ウィルソン(オーストラリア)64.67pt

最後に

今大会を通して一番に感じたのは選手たちの実力が以前に増して拮抗していることだ。若手選手たちの台頭による底上げはもちろんのこと、決勝常連選手の中でも更に競り合う展開が多くなったように思える。実際に昨年の世界チャンピオンであったイートンは表彰台を逃す結果であったし、永原ウィルソンも決め切れなかったものの持ち技の難易度だけを見れば十分表彰台を取れるレベルであると考えられる。

次回は昨年の世界選手権が行われた土地であるUAEのシャルジャがWSTシリーズの舞台。今回の出場選手たちに加えて、今大会不参加であった決勝常連勢が集まることも期待される今年の最終戦では今回以上に更に熱い戦いが繰り広げられることであろう。各選手たちがさらなる成長を遂げた先にどんな戦いが待っているのか今から楽しみだ。

また女子カテゴリーとは違って長年苦しい戦いを強いられてきた日本人男子選手たちも今回の永原の決勝進出で光が見えてきた風に思う。来月11月には国内で日本OPENも開催されるが、世界最高峰で戦えることを証明した永原が国内で試合することで彼と戦う日本人選手たちのレベルが引き上げられることは間違いないだろう。一方で永原に関しては、今大会で予選1位通過をするなど着実に力をつけている。現在世界ランキングは15位だが今大会の結果に応じて順位も上げていくことが期待されるし、彼自身パリオリンピック出場のみならずメダル獲得も視野にいれていることだろう。

個人的にはこういった日本人選手たちがどう世界を相手に戦いを繰り広げて、他の種目同様に世界へ影響を与えていくのかに特に注目したいと思う。今後も国内外での男子スケートボードパークシーンから目を離すな。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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