キーガン・パルマーが2連覇を達成し、新たな歴史を刻む立役者となった「パリ2024オリンピック」スケートボード・男子パーク種目 | CURRENT

キーガン・パルマーが2連覇を達成し、新たな歴史を刻む立役者となった「パリ2024オリンピック」スケートボード・男子パーク種目

| 2024.08.10
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「パリ2024オリンピック」スケートボード・パーク種目の男子決勝が、現地時間8月7日(水)にフランス・パリにて開催された。オリンピックの正式種目に採用されてから2度目となったこのスケートボード・パーク種目では、東京オリンピックから3年経った今改めてチャンピオンを決めるタイミングがやってきた。しかしここまでも約1年間半という期間でこの舞台に出場するためにオリンピック予選大会という難しい戦いを乗り越えてきており、このオリンピックの舞台に立つこと自体が栄誉なことあることは変わりない。

今大会に日本からは、東京オリンピックでの出場を逃した雪辱を果たすべくオリンピック予選大会を勝ち抜いた2023年アジア選手権2位永原悠路が出場。彼に対するは東京オリンピック金メダリストキーガン・パルマー (オーストラリア)や、今年のOQSで強さを見せている優勝候補のアメリカ代表のトム・シャーテイト・カリューをはじめとした世界大会での輝かしい成績を残しているトップ選手の数々だ。彼らを相手に永原は自身が用意してきた「キックフリップボディバリアル540」を1本目でメイクするも、2本目と3本目ではメイクできずベストスコアを81.38ptと予選15位で決勝進出を逃した。ただ永原悠路が今大会に出場したことで日本の男子パーク種目が新たなフェーズに突入したと思う。今後の日本人選手が世界に対してどう台頭していくのかも注目だ。

そんな予選からハイレベルな戦いとなった今大会の決勝に勝ち上がったのは アウグスト・アキオ (ブラジル)、ルイージ・チーニ (ブラジル)、ペドロ・バロス (ブラジル)、キーファ・ウィルソン (オーストラリア)、テイト・カリュー (アメリカ合衆国)、アレックス・ソルジェンテ (イタリア)、トム・シャー (アメリカ合衆国)、キーガン・パルマー (オーストラリア)は8名。このメンバーの中から今回のオリンピック金メダリストが決まることになった。

大会レポート

【ラン1本目】

女子と同様にオリンピックのフォーマットでは決勝は45秒のラン3本目のうち1本のベストスコアが採用される。しかし一度トリックを失敗した時点でランを続行できなくなるため、後半でよりスコアアップを図りたい選手たちはまず1本目をフルメイクしてスコアを残しておきたいと思うのが一般的だが今回のオリンピックの舞台は違った。最初から攻めのライディングを見せてミスをする選手が続く中、一発目から90点台の高得点を残したのはアメリカのトム・シャーとオーストラリアのキーガン・パルマーだ。

バーチカルを主戦場とすることからスピードの速さとエアーの高さが特徴的なシャーはグラインドトリックや回転系のトリックなど様々なトリックを盛り込んだランを見せる。コーピングを利用した長い「バックサイドリップスライド」でスピードをつけると、高さのある「キックフリップインディグラブ」や「テールグラブバックサイド540」、終盤には難しい角度からの「アーリーウープフロントサイドエアー」を決めフルメイクすると90.11ptをマークし後続の選手たちにプレッシャーを与えた。

しかしそんなシャーのライディングに影響を受けて同じく90点台を残したのはパルマー。予選でもまるで決勝のような攻めのランを見せて1位通過を果たした彼は、決勝でも1本目から圧倒的な強さを見せる。エクステンションからクオーターへの「アーリーウープインディグラブ」をメイクすると、「メロングラブ540」やスパインをトランスファーして「キックフリップインディグラブ」。また他の選手があまりトライしないリーンエアーを取り入れた「キックフリップリーンエアー」や「バックサイド540」、そして最後はディープエンドでの「キックフリップインディグラブ to フェイキー」など高難度トリックのバリエーションが印象的なランで1本目にも関わらず93.11ptをマークして幸先良いスタートを切った。

【ラン2本目】

2本目でも1本目同様にほぼ全選手は攻めのライディングをする中、1本目でミスした選手も2本目で改善してくる様子も見られたが、やはりオリンピックの舞台には魔物がいるのか半分近くの選手が転倒やミスでフルメイクできない展開に。その中でまずシャーパルマーに続き90点台に乗せてきたのはアメリカのテイト・カリュー

カリューは1本目ではミスもあったが2本目ではさらにアップデートしたランを見せる。「キックフリップインディグラブ」を皮切りに「テールグラブ540」や「フロントサイドブランドスライド」など様々トリックをメイク。そして終盤には「ヒールフリップインディグラブ」や「ヒールフリップインディグラブ」を決め最後は「ボディバリアル540」をメイクし、ランをフルメイクで終えると90.17ptという評価を受け、暫定2位にまでジャンプアップ。

そんなカリューのリードを許さなかったのが今大会で自分のペースを崩さずライディング出来ているシャーだ。2本目では1本目の同じトリック構成をベースに複数のトリックをアップデート。「テールグラブ540」や「メロングラブ540」などの1本目と同じトリックに加えて「ギャップ to フロントサイドスミスグラインド」や「アーリーウープ540」を決め切り、フルメイクのランで終えるとシャー本人も自分のランに満足したのか喜びを露わにすると、選手たちも駆け寄ってシャーのランを称えた。また会場にいたレジェンドスケーターのトニー・ホークも驚く表情を見せた。ただそのランは92.23ptと暫定1位のパルマーのスコアには届かなかったが暫定2位となった。

そしてここでもう1人触れておきたいのがグラインドトリックが一際光ったイタリアのアレックス・ソルジェンテだ。近年の世界大会はオリンピック予選大会を含めて、入賞するには回転系のトリックをメイクすることが定石となっているが、彼はコーピングを流すグラインドやスライドトリックを決めるスタイリッシュなランを見せて予選では90点台をマークしていた。そんな彼はこの2本目で「キックフリップインディグラブ」をはじめ、カービングでの長い「フロントサイドスミスグラインド」、「ギャップ to バックサイドテールスライド」、そして「フェイキーノーズグラインド」など様々なバリエーションのトリックを決めると84.26ptをスコアした。

【ラン3本目】

最終ランとなった3本目も2本目同様に大半の選手がミスするなど最後まで順位が分からない展開にもつれ込み、まさにオリンピックらしいドラマチックな世界最高峰の戦いが繰り広げられた。そんな中で90点台をマークしてきたのはブラジルのアウグスト・アキオペドロ・バロスだ。

3本目のランでまずベストスコアを残したのはアキオ。1本目、2本目とフルメイクできずにいたが最終ランでしっかり決めてスコアアップをしてきた。まずはエクステンションでの「ヒールフリップボディバリアル」をメイクすると、「ギャップ to バックサイドリップスライド」や「アーリーウープボディバリアル」、さらには「キックフリップボディバリアル360」と「スイッチ180クルックドグラインド」を決めて91.85ptをマーク。カリューのスコアを上回り3位に浮上した。

そんなアキオを追って強さを見せたのは東京オリンピック銀メダリストバロス。パワーライディングが特徴的な彼は飛距離のあるエアーとハイスピードな滑りで3本目をフルメイク。飛距離のある豪快な「キックフリップインディグラブ」でランを始めると、「キックフリップフロントサイドエアー」や「フロントサイドノーズスライド」、さらに複数のスイッチスタンスのトリックを交え、最後は「540ステールフィッシュグラブ」をメイク。アキオのスコアを超えるかと思われる見事なランを見せたがスコアは91.65ptとわずか得点を伸ばせず4位に留まった。

一方で今回悔しい結果となったのはルイージ・チーニキーファ・ウィルソン。両選手とも1本目と2本目では転倒があり後が無い3本目。チーニは「キックフリップボディバリアル270」や「キックフリップインディグラブ to ストール」「キックフリップボディバリアル540」などをキックフリップをベースに派生したトリックをメイクしていくも、最後の「キックフリップインディグラブ to エッグプラント」で失敗。スコアを76.89ptと全体7位で大会を終えた。ウィルソンも「キックフリップインディグラブ」や「アーリーウープボディージャー」「キックフリップボディバリアル540」などをメイクしていくも「バックサイド540」で失敗しフルメイクできず58.36ptをベストスコアにして全体8位という結果になった。

その後暫定5位に後退したカリューと暫定6位となったソルジェンテはメダル獲得するべく攻めのライディングを見せるも、フルメイクには至らずスコアを伸ばすことができなかった。この瞬間でアキオの銅メダルが確定。あとは暫定1位のパルマーのスコアをシャーが超えられるかに注目が集まった。

シャーは2本目でのランをさらにアップデートする形で様々なトリックの完成度を上げたライディングを見せ、その中でもボックスジャンプを反対側から飛ぶバックワーズの「キックフリップインディグラブ」なども決めてトリックをアップデートしたが、最後のエクステンションでトライした「アーリーウープ・テールグラブ540」で転倒しフルメイクできずスコアを伸ばせなかったが92.23ptをベストスコアとし銀メダル獲得を決めた。

パルマーのウィニングランを残したこの時点でパルマー金メダルシャー銀メダルが決まり、表彰台はパルマー、シャー、アキオの順となった。パルマーは東京オリンピックの時と同じ状況の中で今回のオリンピックチャンピオンとして2連覇が決定し、ウィニングランはそんな思いも溢れてかフルメイクはできなかったが、終わった瞬間に中央のボックスジャンプに駆け上がり喜びと感謝を観客に向けて示すとカリューバロスが駆け寄りパルマーを肩車した。お互いの健闘を称え合う姿はまさにスケートボード競技がオリンピックに採用された本当の意味のようなものを垣間見れた瞬間だった。

大会結果

1位 キーガン・パルマー (オーストラリア) / 93.11pt
2位 トム・シャー (アメリカ合衆国) / 92.23pt
3位 アウグスト・アキオ (ブラジル) /91.85pt
4位 ペドロ・バロス (ブラジル) / 91.65pt
5位 テイト・カリュー (アメリカ合衆国) / 91.17pt
6位 アレックス・ソルジェンテ (イタリア) / 84.26pt
7位 ルイージ・チーニ (ブラジル) / 76.89pt
8位 キーファ・ウィルソン (オーストラリア) / 58.36pt

最後に

キーガン・パルマーの2連覇により幕を閉じたパリオリンピック。新たな顔ぶれもありながらも基本的にはキャリアのある実力者が揃った印象。ただその中で感じたのはオリンピックならではの雰囲気だ。今大会は予選と決勝共に全体的に攻めの展開が前のめりだったように感じ、同時にミスをする選手も多いように思えた。これはオリンピックの魔物によるものなのか、いつも戦い方だと勝てないという雰囲気を選手たち全体が感じ取ったのが異質なものだった。

同時にそんな中でしっかり2連覇で勝ち切ったパルマーの凄さを感じた。なぜなら以前より各選手の実力差は少なくなっているように見られ、実際どの選手もトリックを決めきれていれば金メダルを獲れるスキルは持っている中で決めきるということは、ディフェンディングチャンピオンとしてのプレッシャーもある上で簡単なことじゃない。やはりスキルと同じくらいメンタル面での要素が重要ということだろうか。

そして女子と同様のことではあるが、男子でも見られたことで筆者が驚いたのが、大会後に自分たちの結果に関わらずお互いを称え合う点。どちらかというと女子よりも男子の方がコンペティティブな印象があったので女子と同じように称え合うイメージがない中で、今回のような肩車が見られたのはまさにオリンピックらしさを感じられる一瞬だった。

さて今回新たな歴史の1ページが刻まれたのだが、次のロサンゼルス2028オリンピックに向けてどうこのスケートボード競技が変化していくのかに注目だ。スケートボードシーンがスポーツとして認識される一方でこのカルチャーが世間に浸透していき、オリンピックの本質である平和の祭典を体現するものになればいいなと願っている。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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