新女王アリサ・トルーが見せたネクストレベル。日本人選手からは開心那が2大会連続の銀メダル獲得「パリ2024オリンピック」スケートボード・女子パーク種目
「パリ2024オリンピック」スケートボード・パーク種目の女子決勝が、現地時間8月6日(火)にフランス・パリにて開催された。オリンピックの正式種目に採用されてから2度目となったこのスケートボード・パーク種目だが、新女王の誕生か連覇か東京大会から3年を経た今、再度誰がオリンピックという4年に1度の場で頂点に立つのかを決めることとなった。
日本からは東京オリンピック銀メダリストである開心那、アジアチャンピオンの草木ひなの、そして東京オリンピック金メダリストである四十住さくらが出場。彼らに対するは東京オリンピック銅メダリストのスカイ・ブラウン (イギリス)や、今年OQSでもX Gamesでも負けなしのアリサ・ トルー (オーストラリア)など金メダルを勝ち得る優勝候補たちだ。しかし今回連覇を目指し四十住さくらがなんと予選10位で決勝進出を逃す波乱の展開に。
そんな本決勝は全24名の出場者の中、予選を勝ち上がった合計8名で競われ、スタートリストは ドーラ・ヴァレーラ (ブラジル)、ナイア・ラソ (スペイン) 、アリサ・トルー (オーストラリア) 、ヘイリ・シルヴィオ (フィンランド)、スカイ・ブラウン (イギリス)、草木ひなの、ブライス・ウェットスタイン (アメリカ合衆国)、開心那の順となった。
大会レポート
【ラン1本目】
オリンピックのフォーマットでは決勝は45秒のラン3本目のうち1本のベストスコアが採用される形。しかし一度トリックを失敗した時点でランを続行できなくため、後半でより攻めるライディングをするためにも1本目ではまずしっかり走り切りフルメイクしてスコアを残しておきたい。そんな中で80点台後半の高得点を残したのはアメリカのブライス・ウェットスタインだ。
誰よりも大会の雰囲気を楽しむウェットスタインは様々なトリックを組み込んだ見事なライディングを見せる。エクステンションでの「バックサイドノースブラント」を皮切りにギャップオーバーでの「バックサイドリップスライド」や「バックサイドジュードーエアー」、終盤には「キャバレリアルディザスター」を決め切りフルメイクすると88.12ptをマークし笑顔で2本目に繋げた。
そんなウェットスタインの後に滑走し、早速90点台を残したのは開心那。予選1位通過して調子の良さを見せている彼女は、ボックスジャンプレールでの「バックサイドフィーブルグラインド」をメイクすると、ディープエンドのコーピングでの「フロントサイドノーズグラインド」や「バックサイドステールフィッシュグラブ to ディザスター」など高難度トリックを取り入れたスタイルのあるライディングで最後にはセットバックセクションでの「ウォールライド」をメイクし91.98ptをマークして幸先良いスタートを切った。
【ラン2本目】
2本目では1本目で85点以上を出せた選手が得点を伸ばせない一方で、1本目で得点が伸びなかった選手はスコアアップさせる攻めのライディングをするなど、ラスト1本を残す前になんとか高得点を叩き出したいという強い気持ちが感じられた。その中でも90点台に乗せてきたのはトルーとブラウンだ。
まずは1本のミスを修正し、しっかりスコアを伸ばしてきたのはアリサ・トルー。ラン1本目では転倒もあり35.53ptとした彼女は、2本目ではボックスジャンプでの「バックサイド360」からディープエンドの「バックサイド540」、「キックフリップインディグラブ」など豪快な高難度トリックをクリーンに決めるのはもちろん、女子選手ではあまり取り入れられていないスイッチトリック、そして最後には「キャバレリアル360」など様々なトリックが含まれたランは90.11ptという評価を受け、暫定2位になった。
そんなテルーを追う形で多くの選手がミスするランを横目に、1本目のランをアップデートしてきたのはスカイ・ブラウンだ。1本目と同様にエクステンションでの「インバート」や凱旋門ヒップと呼ばれるセクションで「アーリーウープ」など様々なセクションで豊富なバリエーションを見せると、2本目ではレールオーバーの「フロントサイドキックフリップインディグラブ」や「バックサイドステールフィッシュグラブ」、そして最後には「フロントサイド360」を決め切りフルメイクで終えるとスコアを91.60ptへ引き上げると暫定2位に勝ち上がりトルーを3位に追いやった。
【ラン3本目】
最終ランとなった3本目はほとんどの選手が自身のベストスコアを更新し、そのうち3名は90点台を叩き出すという最後まで順位が分からない展開にもつれ込み、まさにオリンピックの舞台にふさわしい世界最高峰の戦いが繰り広げられた。
そんな3本目のランでまずベストスコアを残したのはブラジルのドーラ・ヴァレーラ。まずボックスジャンプレールでの「バックサイドフィーブルグラインド」をメイクすると、ボックスジャンプでの「バックサイド360」やセットバックレールでの「バックサイドアクセルストール」、そして最後には「バックサイドキックフリップインディグラブ」を決めて89.14ptと決勝に勝ち上がれなかったベンチュラやパチェコの分も大健闘し4位で2度目のオリンピックを終えた。
そしてヴァレーラに追随するもメダル獲得には食い込めなかったのはフィンランドのヘイリ・シルヴィオとスペインのナイア・ラソ。シルヴィオは1~2本目で70点台と伸び悩んだが3本目でボックスジャンプでの「バックサイド360」からディープエンドの「バックサイド540」、「フロントサイドボードスライド to フェイキー」そして、「フェイキー540 to フェイキー」を決め切り88.89ptと悪くないスコアを残したもの5位で大会を終えた。またラソも1~2本目でミスが目立ちスコアを伸ばせないでいたが、3本目では「バックサイドテールスライド to トランスファー」や「フロントサイドクレイルスライド」、「バックサイド360」をメイク。ラストトリックには「バックサイドエアー to フェイキー」を決めて86.28ptとし7位で大会を終えた。
また特に今回辛酸を舐める結果となったのは草木ひなの。1本目と2本目では転倒があり後が無い3本目。ボックスジャンプでの「バックサイド360サランラップ」を皮切りに、「バックサイドキックフリップインディグラブ」「フロントサイドツイークグラブ」などをメイクしていくも終盤の「ボディバリアル540」で転倒。スコアを69.76ptと全体8位で大会を終えたが終始笑顔でライディングしていた姿から次回への望みが感じられた。
そしてこの3本目で巻き起こったのはトルー、ブラウン、そして開によるメダル争い。まず金メダルに大手をかけたはトルー。このランでは2本目のトリックをベースに、エクステンションでの「ボディバリアル540」や最終トリックの「ノーズプラント to フェイキー」など豪快な高難度トリックにところどころアップデートして93.18ptというスコアを叩き出し暫定1位になった。
そのトルーのスコアを超えて優勝の座を勝ち取るべくラストランに臨んだのはスカイと開。まずスカイは3本目のランとほぼ同じトリックをセレクトするも、全体の完成度を一段階引きあげたランを見せ92.31ptとスコアを伸ばした。トルーのスコアには届かなかったものの開のスコアを上回り暫定2位に。
3位に順位を落とすも最終滑走者となった開は緊張感が最高潮に高まる中で金メダルを目指してラストランに挑む。2本目でミスがあった「フロントサイドキックフリップ」を決め切れれば得点を伸ばせる可能性が高い展開の中、高得点を残した1本目のトリックをベースにつないでいくと直前の「バックサイドステールフィッシュグラブ to ディザスター」もメイクし、その後の「フロントサイドキックフリップ」もしっかり決め切るとトルーのスコアには届かなかったが92.63ptをマークしてわずかブラウンのスコアを超えて銀メダル獲得を決めた。
この時点でトルーの金メダル、ブラウンの銅メダルが決まり、表彰台はトルー、開、ブラウンの順となった。やはり今年OQSとX Gamesで優勝を総なめしていたトルーが強さを見せた大会で、彼女の測りしれない可能性を感じた。今後いかに彼女を日本人選手勢が抑えられるかで各世界大会での優勝が確実なものになっていくに違いない。
大会結果
1位 アリサ・トルー (オーストラリア) / 93.18pt
2位 開 心那 (日本) / 92.63pt
3位 スカイ・ブラウン (イギリス) /92.31pt
4位 ドーラ・ヴァレーラ (ブラジル) / 89.14pt
5位 ヘイリ・シルヴィオ (フィンランド) / 88.89pt
6位 ブライス・ウェットスタイン (アメリカ合衆国) / 88.12pt
7位 ナイア・ラソ (スペイン) / 86.28pt
8位 草木 ひなの (日本) / 69.76pt
最後に
約1年間半にわたるオリンピック絡みの大会が全て終了し、新女王が生まれたこのパリオリンピック本戦。日本人選手からは開心那、草木ひなの、四十住さくらが出場した中で惜しくも四十住が予選敗退となったがやはり東京オリンピックからの3年間で競技レベルが一段階も二段階も上がったように見られた。
そして今回の金メダルを獲得したアリサ・トルーと他の選手の違いはトリックレベルだけではなく、いかにこの大舞台に向けて良い調整ができているかどうかも要因の一つという風に感じられた。やはり怪我をしないことももちろんだが、直前の大会でもどういう成績が残せるかで勝ちぐせのような良い状態を保ったまま大会を迎えることができるのではないだろうか。
しかし一方でやはりこのスケートボード・パーク種目の素晴らしいところはお互いを称え合う点。予選落ちとなってしまった四十住が自分のランを終えた後に取材で話した「他の選手の失敗は祈りたくない」という言葉。これがスケートボード・パーク種目の本質、そしてオリンピックの本当の意義ではないだろうか。今回のパリオリンピックの選手たちの結果に心無い言葉がかけられたりとか、選手たちが申し訳ない気持ちになるような状況に追い込まれていることも現状としてある中で、是非このスポーツが持つお互いを称え合うカルチャーから何か良い影響を受けてもらえればと願うばかりだ。
さてここからの4年間で次はどんな選手が台頭し、ロス2028オリンピックで新たな歴史を残すのかも楽しみである一方で、このスケートボードというスポーツが持つカルチャーがオリンピックを通して世界にどういう影響を与えていくのかにも注目していきたい。
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