スケートボード界の登竜門「Tampa AM 2023」で感じたのは日本人選手たちの可能性 | CURRENT

スケートボード界の登竜門「Tampa AM 2023」で感じたのは日本人選手たちの可能性

| 2023.10.17
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「Tampa AM(タンパアマ)2023」がアメリカ合衆国のフロリダ州タンパにて開催され、現地時間2023年10月15日午後3時00分から決勝が行われた。

タンパアマはスケートボード界での名声を手にいれるための登竜門と言われ、スケーターなら誰もが憧れるコンテスト。この大会で優勝するという事は世界のスケートシーンから認められる事を意味し、世界を目指すスケーターにとって最も大事な大会の一つとなっている。歴代優勝者には現在の有名トップスケーターたちが名を連ねており、過去には日本人選手から池田大亮、根附海龍、青木勇貴斗、池田大暉が優勝者として歴史に名を刻んでいて、ここ過去4大会は日本人選手が優勝者の座が独占しているような状態が続いている。

そんな新たな日本人優勝者の誕生が期待される今大会の決勝は、準決勝を勝ち上がった10名に加えて、先日の予選にてトップ1・2で通過した選手の合計12名で競われる形となった。今大会にも日本から多くの実力者たちが勝ち上がり世界を相手に日本人選手たちの強さを示すチャンスを得た。

スタートリストはタイラー・キーシェンバウム(アメリカ合衆国)、佐々木音憧(日本)、 ティグメン・オーバービーク(オランダ)、佐々木来夢(日本)、レイザー・クロフォード(アメリカ合衆国)、 平田琉翔(日本)、浦野建隼(日本)、藪下桃平(日本)、 リチャード・ターリー(スロバキア)、 小野寺吟雲(日本)、カルロス・ガルシア(ブラジル)、山附明夢(日本) の順となった。

そして決勝フォーマットは一人1秒のランを3本滑走した上で自身の最高得点のランが最終スコアとなるベストラン採用方式。大会のスケートパークはアメリカ東海岸の中で最も素晴らしいパークと言われ、タンパアマ開催地として世界中で知られている「Skatepark of Tampa」。このパークには観る者もスケーターも共に楽しめるたくさんのレールやボックスなど多種多様なセクションが用意されていて、今大会においてもスケーターたちのスタイルが十二分に発揮できる環境だ。

以下は各ラン毎で会場を沸かせた見事なライディングを見せた選手たちをフィーチャーした大会レポートだ。

大会レポート

【ラン1本目】

1本目では全体的に選手たちのミスが多く目立ち緊張感を感じられるランとなった。しかしそんな中で抜群の滑りを見せてフルメイクでまとめたのは、この大会の予選大会として各地で行われている「Damn AM」で優勝し、先日のワールドツアー第2戦では準優勝を収め、今大会でも準優勝を果たした佐々木音憧。彼の特徴であるスピード感のある滑りから繰り出されるダイナミックなトリックの中から「ノーリー・ヒールフリップ・フロントサイドリップスライド」や、「トレフリップ・フロントサイドボードスライド」そして「ノーリー・バーレーグラインド」などを見せるフルメイクのランを1本目から展開。自身も満足のいくランだったからかやり切った様子で、仲間たちも彼に駆け寄りハグをし合って彼のライディングを称えた。

そんな佐々木に続き、見事なランを見せたのは今大会の優勝者となったアメリカのレイザー・クロフォード。キックフリップの複合トリックを得意とする印象のある彼は「キックフリップ・バックサイドリップスライド」を中心にして「ハーフキャブ・バックサイドリップスライド」や「キックフリップ・フロントサイドフィーブル」をメイク。最後にはブザーギリギリの場面でクオーターのギャップへ飛び出して決めた「キックフリップ・フロントサイドウォールライド」で今大会一の会場の盛り上がりを演出した。

そしてこのランで見逃せない選手は静岡県出身のスケーターである浦野建隼だ。最初は比較的メローな感じでライディングを始めた彼だが、徐々に高難度なトリックを織り交ぜていく。中盤には「キックフリップ・バックサイドノーズブラント」。そして終盤には「フロントサイドテールブラントスライド to バックサイドノーズグラインド」と「インワードヒールフリップ・フロントサイドテールスライド・ビッグスピンアウト」というスタイルの効いた技ありライディングで実況を唸らせるようなミスの無いランを見せた。

もう一人だけここで紹介しておきたいのは今大会の予選2位通過で決勝進出を果たしたカルロス・ガルシア(ブラジル)。彼も全体的にセクションを大きく使いながらレールなどでキックフリップとの複合トリックを見せるスケーター。その中でも「フロントサイドビッグスピン・バックサイドボードスライド」や最後にメイクした「キックフリップ・バックサイドノーズスライド・ノーリーヒールフリップアウト」には彼のスタイルとスキルの高さを感じた。

【ラン2本目】

2本目では1本目をフルメイクを残した選手と対照的に1本目でミスした前半の選手たちが復調してきたイメージ。まず1本目のランのミスを改善してきたのは第一走者となったアメリカのタイラー・キーシェンバウム。1本目ではランディングでの細かなミスが目立ったが、2本目では「フロントサイド180 to スイッチバックサイドクルックドグラインド」や「フロントサイドビッグスピンボードスライド」を取り入れたランで、最後のトリックには失敗するも1本目を大きくリカバリーした。

同じく、1本目のランを大きく上回る安定したランを見せたのがオランダのティグメン・オーバービーク。弱冠13歳であるオーバービークはキャリアの浅さを感じさせない豪快で正確なライディングを見せる。長いハンドレールに向かって「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」を決めると「フロントサイド・ブラントスライド」を綺麗にメイク。ラストトリックには「バンクトゥオーバー・ヒールフリップ・フロントサイドボードスライド to フェイキー」を決めた。見事大技締め括ったフルメイクランには会場もスケーターたちも彼のランを称える姿が見られた。

そして1本目に続いてノリノリのライディングを見せたのがクロフォード。1本目のライディングの更に上回るクオリティで更に「ハードフリップ・バックサイドテールスライド」や、レールセクションでの「キックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインド」から続けてハバセクションで「キックフリップ・バックサイド50-50」をメイクするランを見せた。

【ラン3本目】

もうここで決めないといけない最終局面となる3本目。このランでスタイリッシュかつハイレベルなランを見せたのが佐々木来夢。自身へのプレッシャーからか1本目・2本目とミスが多かった彼だがラストランではしっかりまとめにいくライディングを見せる。まず「スイッチ180・フロントサイドフィーブルグラインド」や「ハーフキャブ・バックサイドスミスグラインド」など高難度のトリックを確実にメイク。また「スイッチ270・フロントサイドボードスライド」のメイク時にはそのトリックレベルの高さに会場を沸かせた。最後は今回一日通してメイクに苦戦していた「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーキックフリップアウト」でスリップダウンし、惜しくもフルメイクとはならなかったが、このトリックを決めていたら確実に表彰台争いに食い込んでいたことだろう。

また佐々木と同じく、ラン3本目にして決勝一のライディングを見せたのが平田琉翔。1本目・2本目とミスが続き背水の陣でラストランを迎えた彼は「バックサイドノーズスライド to ノーリーキックフリップアウト」や「ビックスピン・フロントサイドボードスライド」などを組み込んだランを展開。そして制限時間15秒前に軽く佐々木来夢と軽いコミュニケーションを取った後にアタックした「キャバレリアル・ヒールフリップ」を見事メイク。このトリックを決め切ったことに喜びが溢れ帽子を叩きつけてからボードを投げ飛ばし大きくガッズポーズする姿も見られた。

彼らに続いてこのランでは3名の日本人選手を紹介したい。それは藪下桃平、小野寺吟雲、そして山附明夢だ。

まず今大会にて3位入賞となったのが藪下桃平。実は藪下がフルメイクしたのは1本目だけなのでこの1本目のランが3位へ導いたのだろうが、今回彼のランで注目したいのは2本目と3本目にトライしていたトリックだ。それが今回ミスもあったものの彼だけがメイクした「キックフリップバックサイド360・バックサイドリップスライド」。おそらくこのトリックを決めた上でフルメイクができていたら彼の優勝も大いにあっただろう。今後が注目の14歳若手スケーターだ。

もちろん目が離せないのは藪下だけではなく弱冠13歳のビックネーム、小野寺吟雲。今大会では一度もフルメイクできなかったこともあり4位という結果ではあったが、この錚々たる面々を相手に4位という結果を残したのは彼の大技の数々のおかげであることは明白だ。ラン3本目でメイクした「ダブルキックフリップ・フロントサイドボードスライド」そして「キックフリップ・フロントサイドブラントスライド・ビッグスピンアウト」。こういった超高難度トリックを決めたことは確実にスケートシーンに彼の強さを示すのに十分な材料だったと思われる。

そして最後にこの記事で言及しておきたいのが山附明夢の強さについてだ。決勝では自分の思うようにランをまとめることができずミスを連発してしまったが、予選トップ通過の実力と彼のスキルの高さは世界中から高く評価されている。ただ巷ではタンパアマ、タンパプロ共に予選から決勝に「ストレートアップ」で進出したライダーが勝てないというジンクスがある。ガルシアも結果はイマイチだったこともあり山附と共にその洗礼を受けたのだろうか?

また山附のスタイルで非常に興味深いのは、他選手と異なり豪快なハンマートリックではなく、シンプルながらもスイッチやフェイキー、ノーリーなど細かい技術を掛け算することで生まれた高難度トリックを持ち味としていることだ。昨今は高難度トリックの複合技が比較的主流である一方で、独自のスタイルでそのスキルの高さを表現している山附。今後世界を相手に彼が自分のスタイルを引っ提げてさらに高みを目指す姿に注目していきたい。

【大会結果】

優勝 レイザー・クロフォード(アメリカ合衆国)
2位 佐々木音憧(日本)
3位 藪下桃平(日本)
4位 小野寺 吟雲(日本)
5位 浦野 建隼(日本)
6位 ティグメン・オーバービーク(オランダ)
7位 タイラー・キーシェンバウム(アメリカ合衆国)
8位 平田 琉翔(日本)
9位 カルロス・ガルシア(ブラジル)
10位 佐々木 来夢(日本)
11位 山附 明夢(日本)
12位 リチャード・ターリー(スロバキア)

最後に

今大会を通して一番感じたのは現在ワールドツアーで活躍する選手だけではなく、世界トップクラスの日本人選手が輪をかけて存在しているということだ。実際に今大会には佐々木音憧や小野寺吟雲などワールドツアーや世界選手権でも決勝で結果を残すような選手たちもいる中で、それと同等の選手たちがこんなにも多く存在することに今回の結果を見て驚いた方もいるだろう。その中でも特に日本人選手たちのレベルの高さには彼らの実力を分かっていても目を見張る部分がある。

タンパアマはアマチュア最強を決めるような大会と位置付けられてはいるものの、正直プロと同じかそれ以上のレベルを持つ選手がこの決勝に集まっている。我々としては彼らが今後どのようなキャリアを歩み、かつこの競技面でのスケートシーンにおいて新たな風を送り込んでくれるのかを楽しみにしている。

個人的には今大会を通じてこれだけ多くの世界に通用する日本人選手たちが出てきていることに日本のスケートシーンの未来は明るいと感じている。今回結果を残した日本人選手たちが今後世界を相手にどういった影響を与えていくのかを注目していきたいし、今後もスケートボード界での名声を手にいれるための登竜門であるタンパアマを通じて新たな逸材が現れるの常にチェックしていきたいと思う。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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