SKATE ARK produced by ARK LEAGUE in YUSF’23
この度、「YOKOHAMA URBAN SPORTS FESTIVAL 2023」が2023年7月29日(土)~30日(日)の2日間にわたり横浜赤レンガ倉庫内イベント広場・赤レンガパーク(神奈川県横浜市中区)で行われ、本イベント内にてスケートボード・ストリート種目のコンテストとして「SKATE ARK produced by ARK LEAGUE」が開催され、Men’s Hiでは根附海龍が優勝。Women’sでは織田夢海が2年連続優勝を果たした。
スケートボード・ストリート種目において日本は世界的に見ても強豪国の一つと知られていることはもう当然のことだが、その事実の立役者であり国内のスケートボード・ストリート種目を牽引するトップ選手たちが本コンテストに集まり、国際大会や全日本選手権さながらのハイレベルな戦いとなった。そんなコンテストがなんと神奈川県横浜市屈指の観光スポットである横浜赤レンガ倉庫内で無料で観戦できることとなり、スケートボード・ストリートシーンにとっても注目されたコンテストとなった。
なお、本決勝の大会フォーマットはベストスコア採用方式。一人当たり40秒のラン1本とベストトリック5本にトライし、その中から最も高い得点の3本の合計をスコアとして計算するという、昨今のパリオリンピック予選大会以前に度々採用された懐かしい大会フォーマットの下で優勝争いの火蓋が切って下された。
以下はMen’s HiとWomen’s Hiの決勝レポート
大会レポート
Men’s Hi
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本コンテストの決勝メンバーには、前日に開催された予選ランにて全10ヒート総勢37名の中から勝ち抜いた上位6名だけが選ばれる形。なお上位6名のみが勝ち上がれる狭き門でというだけあって、前大会の優勝者である石塚祐太や、X Games Chiba 2022銀メダリストの池田大暉、そして世界を舞台に活動する池慧野巨といったトップスケーターたちも敗退するほどの壮絶な戦いが予選の時点で繰り広げられた。
そんな予選を勝ち上がった選手たちのスタートリストは、 佐々木来夢、藪下桃平、根附海龍、青木勇貴斗、白井空良、佐々木音憧の順。近年急激に力を伸ばし成績を残している大型ルーキーから東京オリンピック代表選手まで錚々たる顔ぶれが揃った。
決勝が争われた大会会場は、コンパクトながらもレールやハバセクション、ギャップなどが設置された縦長でスキルが求められるコースレイアウト。また会場は海から風の通る位置に配置されたこともあり時折強風に苦戦する選手たちの姿も見られたが、その中でも絶妙なタイミングと見事なボードコントロールでしっかりメイクしていく選手たちが好成績を残した。
【ラン1本目】
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今回の決勝では1本だけのランとなったが、各選手が途中で転倒などのミスがある中で圧倒的な強さを見せたのが東京オリンピック日本代表選手の白井空良だ。パリオリンピック出場に関わるオリンピック世界スケートボードランキングで現在5位の彼は、フロントサイド270 to スイッチバックサイドリップスライドや、ノーリービッグスピン・バックサイドテールスライドなど高難度トリックを次々とメイク。MCも思わずこれがオリンピアンと言わずにいられないほどの圧巻のライディングを強風の中でやってのけ8.9ptをマーク。ただ白井自身、特にラン後も変わった様子は無くこの環境でこのランをするのは当然かの表情で余裕すら感じられた。
【ベストトリック1本目】
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そんな1本のランを終えて、ほとんどの選手が納得いかない得点だったことから、ひとまず高得点を残しておきたいと思う中で挑んだベストトリック1本目。ここでインパクトのあるトリックをメイクしたのが佐々木来夢と佐々木音憧の佐々木兄弟。トップランナーだった兄・来夢がスイッチ360・バックサイドテールブラントスライドをハンドレールでメイクすると、弟・音憧はフェイキーキャバレリアル・ノーズブラントスライドをハンドレールでメイク。2人共に8.4ptをマークした。幸先良いスタートを切ったと思われた2人だが、この後一度もトリックを決めることはできず惜しくも表彰台獲得は至らなかった。
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今回この兄弟を見ていて特に印象的だったのは兄・来夢が、弟・音憧のトリックメイクを心から願っていたことだ。自分のミス以上に弟のミスを悔しく思っている様子が見て取れて、この二人の仲の良さと信頼関係の強さを垣間見ることができる瞬間だった。この兄弟関係があれば今後さらに強くなることは間違いないだろう。実際、音憧の方は最近様々な大会で結果を残しており注目されている選手の一人だ。もしかしたら強さの秘訣の一つはこの兄弟関係かもしれない。
【ベストトリック2本目】
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海風の影響を受けてか、なかなか各選手がベストトリックでメイクに苦しむ中で、1本目・2本目と安定してトリックをメイクしたのが今回決勝進出者の中で最年少14歳の藪下桃平だ。ランでは序盤から転倒があり得点を伸ばせていなかったため、ベストトリックでは一際決めておきたい気持ちが強かったのが彼だろう。1本目ではビガースピンフリップ・フロントボードスライドをメイクし、2本目ではトレフリップ・バックサイドボードスライドとダイナミックなトリックを2本続けてメイク。なかなか2本揃って決められていない他選手にプレッシャーを与えるライディングを大型ルーキーが見せた。
【ベストトリック3本目】
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そんな藪下のプレッシャーを受けて火がついたのが根附海龍と青木勇貴斗。共に1本目・2本目とミスしていた二人がここで巻き返し始める。根附は1~2本目でノーリーインワードヒールフリップ・フロントサイドボードスライドのメイクに苦戦していたが3本目でしっかり決め見事8.4ptをマークし次に繋げた。ほっとした様子から笑顔もあふれていた。そして彼に続いたのは東京オリンピック日本代表選手の青木。ノーリービッグスピンヒールフリップ・バックサイドリップスライドをメイクして8.7ptにつけると彼も根附同様に笑顔を見せたが自分のやったトリックに関しては当然の出来というような様子で、オリンピアンとしての強さを見せた。
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【ベストトリック4本目】
いよいよ展開が読めなくなってきた状態で迎えた4本目では、ここで決められるかどうかで大きく結果が変わってくる大事な一本となった。特にランで圧倒的な強さを見せていた白井は1本目からトライしている彼のシグネチャートリックであるキャバレリアルシュガーケーンのメイクに苦戦。ここで決めておかないと厳しい展開になるのは明白だった。しかし白井は4本目でもランディングで滑ってしまい失敗し、一歩優勝から遠のいてしまう。
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そんな白井をよそに見事なトリックをメイクしたのが根附。風が一瞬落ち着いたタイミング繰り出したのはヒールフリップ・バックサイドノーズブラントスライド。少しスケッチーではあったがメイクできた瞬間は根附本人も驚いた様子だったがここでしっかり強さを見せて優勝を手繰り寄せにかかる。
【ベストトリック5本目】
そして迎えた最終局面。白井は残念ながら最後まで決め切ることはできずコンテストを終え、佐々木兄弟も藪下もその後決め切ることができなかった。そんな中、最後優勝を確実にした一髪を見せたのが根附。自身の得意とする踵を起点にボードを横回転させるヒールフリップを使ったヒールフリップ・バックサイドテールスライドを綺麗に決め優勝を勝ち取った。
ここで気になるのは2位以降の順位。周りがベストトリックで2本以上決めているのは根附を除くと藪下と青木の2名。根附とは大きく差が開く形にはなったが、最終合計点で藪下が2位、青木が3位となった。そしてこれは大会後の話だが、実は青木は最後の1本は気持ちよく終わろうと思ってメイクできるトリックをチョイスしたらしい。そのため3位という結果には彼自身も驚いたそうだ。
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この話を聞いて改めて思い出したのが本コンテストは国際大会でもなければオリンピック予選大会でも無いということだ。選手が全員楽しめて自分たちのベストなトリックを見せようと集まったコンテストにこれだけの豪華メンバーが揃ってしまっただけなのだ。とはいえこれだけのメンバーが集まってしまうこのコンテストは改めてスケーターたちに愛されているイベントだったんだろうと感じた。
Women’s
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Men’s Hiの決勝前に日中の酷暑の中で開催されたのWomen’s決勝メンバーには、これもまた国際大会で結果を残す豪華メンバーの面々。オリンピックメダリストの西矢椛や中山楓奈、そして2023年世界チャンピオンの赤間凛音などのエントリーはなかったものの、一般のコンテストとしてはもったいないくらい全日本選手権さながらのメンバーが予選13名の中から勝ち上がった。
本来は6名での決勝となる予定だったが、残念ながら原田結衣が練習中での怪我のため欠場。5名で優勝の座を争うこととなった。
なおスタートリストは藤澤虹々可、織田夢海、杉本二湖、大西七海、松本雪聖の順だ。
【ラン1本目】
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近年、ベストトリックでの複合技が主流になっている女子ストリート種目だが、そのベストトリック合戦に突入する前に身体ならしの意味でも挑む形となったランでは若手を差し置いてキャリアのあるビックネームが結果を残す展開となった。
まずこの戦いを勢いづけたのが今回予選6位で通過した藤澤虹々可。今コンテストの決勝メンバーでは最年長となる彼女はフロントサイドフィーブルグラインドをファーストトリックにしてランをスタート。その後も高難度なフェイキーバックサイドリップスライドをメイクし、フルメイクでランを終え7.9ptをマークした。
そしてもう一人見事なランを見せたのが織田夢海。前回大会の優勝者である彼女はバックサイドノーズグラインドでランを始め、バックサイド50−50など加点しながら最後はフロントサイドフィーブルグラインドでまとめ藤澤と同じく7.9ptでランを終えた。
【ベストトリック1本目】
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一方でベストトリック前半戦は10代前半の若手選手が得点を重ねていく展開。まずは予選2位通過の大西七海がバックサイド5-0グラインドで5.9ptをマークし確実に得点を作る。そして大西に続いて予選1位通過の松本雪聖も1本目でバックサイドボードスライドをメイクして得点を5.4ptとする展開に。最初から大技にトライするか、もしくは後半を有利に進めるために先に決められるトリックをメイクするかで戦い方が異なる選手ごとの戦略が見える興味深い展開。
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【ベストトリック2本目】
2本目ではまず織田が着実に高得点を決めるため、キックフリップ50-50をハバセクションでトライ。ランディング後にコース横のカメラマンにぶつかりそうになるもなんとかメイクし7.3ptをマークして一歩前へ躍り出た。その後は1本目と同様に大西と松本がフロントサイドリップスライドをメイクし1本目と同様の展開が続く。
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【ベストトリック3本目】
そんな流れが全体的に変わったのがこの3本目。各選手が複合技の高難度トリックにトライする展開に。横風の影響を受けてか誰もこの回ではメイクできずラスト2本の終盤戦にもつれ込みまだまだどうなるか分からない状態となった。しかしここまで一度もベストトリックをメイクしていない藤沢と杉本にとっては背水の陣となった。
【ベストトリック4本目】
ここでその均衡を破ったのは藤澤。1本目からずっとトライしていた高難度トリックであるポップショービット・フロントサイドフィーブルグラインドをメイク。彼女以外にメイクできる選手は世界を見てもなかなかいないことから唯一9点越えの評価。本コンテストの本当の意味でもベストトリックだった。
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彼女に触発される形で大技を決めたのは織田。キックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインドを同じハンドレールでメイクし8.9ptをマークし暫定1位のキープした。
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藤澤と織田は普段から神奈川県寒川町にあるスケートパーク「THE PARK SAMUKAWA」で共に滑る仲間でもある。お互いに決めたかったベストトリックを決められたことを称え合う姿が改めてこのスポーツの魅力を感じさせる一瞬だった。
【ベストトリック5本目】
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そして迎えた最後の5本目。特に松本雪聖と杉本二湖にとっては決めておきたい最後の1本。松本はこのベストトリックを迎えた時点で暫定3位。最後の1本を決めきれず暫定2位となった藤澤とはわずか0.4pt差。何かしら今持っている最低得点を塗り替えることができればジャンプアップできる位置だったが彼女の用意したベストトリック用の複合トリックはメイクできずに惜しくも3位で大会を終えた。一方で今回なかなかベストトリックをメイクできないでいた杉本は最後に綺麗なキックフリップ50-50ボードスライドをメイク。なんとか良い形で大会を締め括った。
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この結果から織田は前大会に続き2連覇達成。彼女が藤澤や松本と異なる成績を作れた勝因はメイク率から垣間見ることができ、それは最近世界最高峰の舞台を幾度となく経験していることから来るメンタル面での強さだろう。
Men’s Low
そして今後のストリートシーンを背負う次世代の期待のルーキーたちが出場したMen’s Lowクラスから、入賞選手たちのランを紹介。今回優勝を勝ち取ったのは長い髪の毛が特徴的なノロ・ユウキ。キックフリップ・フロントボードスライドをはじめ、多くのバリエーションのトリックを様々なセクションを用いてメイクする彼は特にランディングの綺麗さが際立っていた。地元横浜からの参戦だったが見事生まれ育ったこの土地に優勝という結果を持ち帰った。
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また準優勝となったのはサガワ・リョウナ。スイカ色のヘルメットにスイカ柄のデッキテープという夏仕様で本コンテストに挑んだ彼は、2本の決勝ランのうち1本目でトリックに失敗し手を着くミスをするも、2本目で見事にリカバリー。ギャップセクションでのトレフリップなどをメイクして18.5ptをマークし2位の座を勝ち取った。
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そして3位となったのはホリ・マヒル。長い手足から繰り出されるトリックがスタイリッシュな彼は、1本目で見せたフルメイクのランの中に、キックフリップやプレッシャーフリップなどバリエーション豊かなトリック選びが評価されて16.3ptをマーク。このスコアを守り切り3位で表彰台入りを果たした。
【大会結果】
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Men’s Hi
優勝 根附 海龍 (ネツケ・カイリ) 26.5pt
2位 藪下 桃平 (ヤブシタ・モモヘイ) 20.1pt
3位 青木 勇貴斗 (アオキ・ユキト) 19.9pt
4位 佐々木 音憧 (ササキ・トワ) 16.1pt
5位 佐々木 来夢 (ササキ・ライム) 14.9pt
6位 白井 空良 (シライ・ソラ) 8.9pt
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Women’s Hi
優勝 織田 夢海 (オダ・ユメカ) 24.1pt
2位 藤澤 虹々可 (フジサワ・ナナカ) 16.9pt
3位 松本 雪聖 (マツモト・イブキ) 16.5pt
4位 大西 七海 (オオニシ・ナナミ) 15.6pt
5位 杉本 二湖 (スギモト・ニコ) 12.6pt
6位 原田 結衣 (ハラダ・ユイ) DNS
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Men’s Low
優勝 ノロ・ユウキ 20.5pt
2位 サガワ・リョウナ 18.5pt
3位 ホリ・マヒル 16.3pt
最後に
今大会を通して感じたことは本コンテストで繰り広げられた戦いがまさにパリオリンピック予選大会さながらのハイレベルなもので、彼らの試合運びや勝因となった要素を見たときに一般コンテストを域を超えたものになっていたということだ。
そしてなかなかこのメンバーが普段の大会で顔を合わせることもないため、とりわけこのようなコンテストで戦うのはかなりレアなことであり、肩肘張らずに滑り競い合えた本コンテストは選手たちにとっても今後のパリオリンピック予選大会前の効果測定として良い機会になったのではと感じた。
また今回同時開催となったMen’s Lowカテゴリーでは優秀なキッズスケーターたちがどんどん現れていることが分かり、そんな彼らが国内最高峰の戦いを目の前で気軽に見られる機会を今回提供できたことも本コンテスト開催の大きな意味ではないかと感じている。長い目で見た時にここで活躍したキッズスケーターが今後どんな形で現在のトップ選手たちと相見えるのかも楽しみで仕方ない。
●今日 ○イベント開催日