優勝を引き寄せたのは周りに影響されず決め切る強さ「World Skateboarding Tour :ローマ・ストリート 2023」- パリ五輪予選大会 / 女子ストリート決勝 | CURRENT

優勝を引き寄せたのは周りに影響されず決め切る強さ「World Skateboarding Tour :ローマ・ストリート 2023」- パリ五輪予選大会 / 女子ストリート決勝

| 2023.06.27
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この度、2023年6月18日(日)~25日(日)に渡ってイタリアのローマで開催された「WST:ローマ・ストリート2023」。パリ五輪2024の予選大会を兼ねた本大会の女子ストリート決勝は壮絶なベストトリック合戦の末、日本の赤間凛音に王者の座への軍配が上がった。

近年、さらに競技レベルが向上しランの構成からトリックの難易度まで男子に迫る勢いで成長を遂げている女子ストリート。その中でも高難度トリックを高い完成度でメイクすることで有名な日本人選手勢からは、赤間凛音、西矢椛、上村葵、織田夢海、伊藤美優の5名が見事決勝に駒を進めた。そして彼らを迎え撃つ形でブラジルからライッサ・レアウ、ガブリエラ・マゼットの2名と、オーストラリアのクロエ・コベルが決勝に勝ち上がり計8名で優勝争いが行われた。

練習時間では選手たちがそれぞれ身体やトリックの調子を確かめる中、お互いにコミュニケーションを取る姿も見られたが、やはりパリ五輪予選大会ということで自分たちのパリ五輪出場の可否にも大きく関わることからどことなく緊張感を感じる一面もあった。

そんな中でどんなトリックをどのタイミングでチョイスするかなど、自分たちのベストトリックを決め切るだけではなく駆け引きが勝敗を左右するのが決勝戦。選手たちの各々の仕草とパフォーマンスから今回の女子ストリート決勝を振り返っていく。

【ラン】

既に周知されていることではあるが、このパリ五輪選考大会から採用されたのがベストラン採用フォーマット。入賞するためには決勝ランの2本のうち1本は確実に点数を取ることが必要とされた。

ラン1本目の第一走者となったのは決勝進出者の中で最年長のガブリエラ・マゼット。決勝最初のランであるため、ここでどんなランをするかでこの一戦の空気がガラっと変わる大事な場面。彼女は大技をメイクすることはなかったもの、ダブルセットなどの難しいレイアウトのセクションをうまく使いスキルフルな走りを見せた。

そんな1本目で特に安定感のあるランを見せたのは、東京五輪金メダリストの西矢椛。彼女のスタイルでもあるリラックスしたスタンスのライディングの中に、ギャップセクションでの「バックサイド・リップスライド」など高難度トリックを組み込んでくるところが印象的だった。

西矢椛のライディング

またその西矢を上回るランを見せたのが準決勝1位通過を果たした赤間凛音。周りの選手は所々でミスが目立つ中、赤間は「フロントサイド・フィーブルグラインド」や「フロントサイド270・ボードスライド」をメイクしほぼノーミスでまとめ88.61ptとし暫定トップでランを終えた。

ラン2本目では、特に1本目でミスをした選手たちが上手くカバーして得点を上げてくる展開。逆に1本目で85.60ptを出した西矢を始め、既に高得点を残している選手は気負いせず、ラン途中でミスがあった場合も無理に攻めずに次のベストトリックに体力を温存する様子も見られた。

一方で、2本目のランで印象的だったのがブラジルを代表するライッサ・レアウ。1本目では最初にトライしたハンドレールでの「バックサイド・リップスライド」の転倒を始め、ミスが目立ち26.45ptと彼女としては珍しいランで終えていたが、2本目では上手くリカバリー。ラストトリックの「バックサイド・テールスライド」でミスがあったものの70.00ptまで引き上げ、ベストトリックでの上位争いに食い込む余地を残した。

【ベストトリック】

そんな中で迎えたベストトリックは最後まで結果が分からない展開に。実際に全体を通して選手たちのメイク率は比較的低かったことから、改めて彼らが今大会で勝つために高難度の複合トリックを用意してきたことがうかがえた。

その一方で、そこまでしないと入賞できないほどに女子ストリートの競技レベルが急成長していることも事実であり、実際に90点台の超大技をメイクしてもそれを補填する高得点のトリックとランがないと入賞できないことも痛感させられた大会だった。

以下は各トライで印象的だった選手たちのライディングだ。

1・2本目

このハイレベルなベストトリックの戦いの火蓋を切ったように思えたのは今回3位入賞を果たした織田夢海。彼女は1本目でパークの真ん中に設置されたハバセクションで「キックフリップ・バックサイド・50-50グラインド」という高難度の複合トリックをメイクし86.59ptをマーク。また2本目も得意のキックフリップを活かし、ハンドレールで「キックフリップ・フロントサイド・ボードスライド」をメイクし88.93ptとした。その後の3本はさらに高難度のトリックにトライするもミスが続いたが、最初の2本のスコアで持ち堪え表彰台の座を勝ち取ることとなった。

織田夢海のライディング

3本目

織田の2本目のトリックが暫定最高得点の中で迎えたこの回はオーストラリアのクロエ・コベルがハンドレールで「フロントサイド・50-50 to キックフリップアウト」をメイクし92.12ptをマーク。最高得点を塗り替えて他の選手にプレッシャーを与え、さらに戦いのレベルを引き上げた。

またコベルと同様に今回のベストトリックで自身最高得点を残したのは伊藤美優。安定したライディングで決勝まで進んだ伊藤はこの3本目で「フロントサイド・テールブラントスライド」をメイクし84.64ptをマーク。終始笑顔でライディングしていた彼女はさらに得点を伸ばすべく4~5本目で他の選手が今回やっていないギャップでの「ハードフリップ」にトライするも今回はメイクできなかった。

クロエ・コベルのライディング

4本目

この回で特に印象的だったのは先日の「Uprising Tokyo」優勝者である上村葵のトリック。実はラン終了後、ベストトリック前のウォームアップ中に転倒があり身体を痛めていた彼女。身体的に苦しい状況でのトライとなり、1本目と3本目では思うようにメイクができず失敗が続く。待機中は身体の痛みを辛さを感じさせるような表情を見られた。そんな状況下でトライした4本目。ハンドレールに綺麗なストライドで進入しメイクした完成度の高い「ヒールフリップ・フロントサイド・ボードスライド」で92.84ptをマーク。得点が発表されたときには痛みと嬉しさが混った涙が目に溢れていた。

上村葵のライディング

また同じく転倒により厳しい状況でベストトリックをこなすことになったのがレアウ。2本目で「キックフリップ・バックサイドテールスライド」にトライするもお腹側からボトムに転倒。その影響から3本目はスキップする形となった。最近は各世界大会での優勝など華々しい成績を残している彼女だが、その位置をキープするため、また新世代のエースとして女子ストリートシーンをネクストレベルに引き上げるために苦悩しながらも常に挑戦し続けている姿を今回のライディングから強く感じることができた。

優勝を左右したのはなんとベストトリックのラスト1本

赤間凛音のライディング

今回の優勝に繋がる決定打となったのは5本目の赤間凛音のラストトリック。実は今回トリックミスが続き各選手が思うような得点を残せていない中、本決勝最多となる4本を決めていたのは彼女だけなのだ。また赤間がベストトリックでも強さを発揮できる理由として持ち技の異彩さが挙げられる。彼女が得意とするのは「バーレーグラインド」「フロントサイドビッグスピン」「フロントサイド180スイッチ5-0グラインド」などと他の選手がやらないトリックの数々だ。こういったトリックをいくつも持っていることはベストトリックの評価対象として大きなアドバンテージとなる。

そして終始自分のペースを崩さずこのベストトリックで高得点を重ねてきた赤間は、最終走者としてラストトリックとなる5本目を迎えるのだが、他の選手全員が5本目をミスしている中で暫定1位のコベルとは7点の差がある状況。ここで決めないと優勝はないという中でメイクしたのは、彼女が得意とする横回転を取り入れた「フロントサイド・フィーブルグラインド to フロントサイド180アウト」。このトリックで90.07ptをマークし、全体のスコアでわずか2.5ptほどコベルを上回り見事優勝を勝ち取った。

大会後のインタビューで本人は「正直クロエに勝てると思っていなかったので、練習していないトリックを最後に選んだのですが決まってびっくりしています。」と話したことから、あの状況で未完成なトリックを選びメイクできるその精神力と実行力が今回の優勝を手繰り寄せたのだろう。

まとめ

今回は大会全体を通して女子ストリートの急激な競技レベルの向上を感じる一戦だった。現在の女子ストリートを勝ち抜くために必要だと考えられるのは高難度の複合トリックを始めとした高得点を獲得できるランの実行力とそれを支える精神力だろう。実際に今回8位に終わった西矢も終盤にトライしていたのは「バックサイド・クルックドグラインド to ノーリーヒールフリップ」というメイクすれば優勝の可能性が高い超高難度トリックだった。

なお冒頭でも触れたように本大会はパリ五輪予選大会であるため、今回の結果から今後の日本人同士の五輪出場者枠争いもかなり熾烈になっていくことがうかがえる。日本人選手勢はオリンピック世界スケートボードランキング(OWSR)においても上位にランクインする選手が多いが、その一方で出場枠は各国3名までと決まっているのだ。

今回の結果を経て、現在日本人選手の上位3名はランキング2位の西矢椛、3位の中山楓奈、そして5位の赤間凛音の順となっているが、中山は今回鎖骨骨折の影響で本調子が出せず敗退している。これにより今回の決勝メンバーである織田(6位)、上村(12位)、伊藤(21位)の3名にも今後の結果次第では大いにパリ五輪の代表に選ばれる可能性が出てきた。今後の世界大会での入賞争いはもちろんのこと、日本人同士の熾烈な五輪出場者枠争いも目が離せない。

大会結果

優勝 赤間 凛音(アカマ・リズ)- 日本/ 263.90pt
準優勝 クロエ・コベル – オーストラリア / 261.43p
第3位 織田 夢海(オダ・ユメカ) / 246.38pt 
第4位 ライッサ・レアル – ブラジル / 240.57pt 
第5位 伊藤 美優(イトウ・ミユ)- 日本 / 234.48pt 
第6位 上村 葵(ウエムラ・アオイ)- 日本 / 230.42pt 
第7位 ガブリエラ・マゼット – ブラジル / 200.90pt 
第8位 西矢 椛(ニシヤ・モミジ)- 日本 / 160.69pt

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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