歴史を塗り替える快挙。5年ぶり7回目のSLSタイトルを獲得したナイジャ・ヒューストン「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP 2024」 男子決勝
2024年シーズンもいよいよ最終戦を迎えた「Street League Skateboarding (SLS)」。つい先月、日本の東京・有明でシリーズ7戦目として開催され日本人ライダーたちの大活躍が記憶に新しい「SLS Tokyo 2024」から束の間、2024年のSLSシリーズチャンピオンを決める「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP 2024(以下:SLS SUPER CROWN)」がブラジル・サンパウロで開催された。
男子カテゴリーでは、優勝候補であるパリ五輪金メダリストの堀米雄斗や、根附海龍や池田大暉が日本人勢として出場するも残念ながらノックアウトラウンドで敗退するなど、シリーズチャンピオンを決める戦いとして相応しい極めてレベルの高い戦いが繰り広げられた。決勝にはシード選手として出場したフェリペ・グスタボ(ブラジル)、クリス・ジョスリン(アメリカ合衆国)、ジオバンニ・ヴィアンナ(ブラジル)に加えて、グスタボ・リベイロ(ポルトガル)、ジャンカルロス・ゴンザレス(コロンビア)、ナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)が駒を進めた。今大会ではディフェンディングチャンピオンであるヴィアンナの2連覇や、ヒューストンの前人未到の7度目の優勝も期待され、新たな歴史が刻まれる一戦となった。
SLSの採用するフォーマットはランの完成度を評価する「ラインセクション」が2本、ベストトリックの難易度を評価する「シングルトリックセッション」が5本の計7本のうち4本のベストスコアを合算してリザルトを出す形であり、なおラインセクションからはベストラン最大1本のみが採用される。ただシングルトリックでラインセクションを上回るスコアを残した場合、ラインセクションのスコアは合計スコアには反映されない。そのためシングルトリックだけで逆転することも可能であるため、9点以上の「9 CLUB」を比較的出しやすいシングルセクションでの駆け引きや戦い方が重要視されるということは他のオリンピック関連の国際大会とは異なる部分だ。特に近年は「9 CLUB」をコンスタントに残せないと表彰台に残れないほどハイレベルになっている。
【ラインセクション】
ライン1本目
近年のSLS大会と同様に今回も序盤から「9 CLUB」の応酬が期待されたが、ラインセクション1本目はほとんどのライダーが思うようにスコアを伸ばせず不本意なスタートを切る中、唯一9点台をこの1本目からマークしたのはディフェンディングチャンピオンとして決勝を迎えたジオバンニ・ヴィアンナ。
ヴィアンナは自身が得意とする「キャバレリアル」をベースとしたトリックを中心にランを構成。最初に中央の15段ステアのハンドレールで「キャバレリアルバックサイドリップスライド」でライディングをスタートすると、「スイッチフロントサイドブランドスライド」や「ハーフキャブフロントサイドノーズグラインド」などをしっかり決め、終盤では極め付けに「フェイキーハリケーングラインド」をメイクしノーミスでまとめると9.1ptのハイスコアをマークした。
ライン2本目
ラインセクション2本目では1本目でミスがあったライダーが復調し、一方で1本目で8点台をスコアしたライダーがミスをしてスコアを伸ばせずといった対照的な展開に。ただそれでもなかなか9点台にスコアアップできるライダーが出てこない難しい1本となっていたが、その中で本決勝ラインセクション最高スコアをマークしたのは今大会で7度目のタイトル獲得を目指すナイジャ・ヒューストン。ヒューストンは1本目でメイクした高難度トリックに加えて、ミスしたトリックもこのランではしっかりメイクし、幅広いバリエーションから様々なトリックを見せる。
ランの中では「ビックスピンフロントサイドボードスライド」や「ヒールフリップバックサイドリップスライド」でのレールトリック、ギャップでの「ハーフキャブキックフリップ」を順調にメイク。そして1本目では惜しくもバランスを崩してメイクできなかった「スイッチフロントサイドブラントスライド」を決め切り、その後は制限時間ギリギリのところでSLSロゴ越えの「スイッチヒールフリップ」をメイク。見事9.2ptをマークし精神的にも余裕を持った状態で次に繋いだ。
この時点ではヒューストンが首位、2位にヴィアンナ、3位に1本目で8.8ptをマークしたゴンザレスという順でシングルトリックセクションへ。本決勝のメンバーはどのライダーもシングルトリックセクションで強さを発揮するため、この後も「9 CLUB」が合戦が予感された。
【シングルトリックセクション】
1トライ目
そして迎えたシングルトリックセクションは予想通り1トライ目から「9 CLUB」の連続。まず9点台を叩き出したのはラインセクションで十分なスコアを残せずにいたグスタボ・リベイロ。彼が最初にメイクしたのは15段ステアハンドレールでの「フロントサイドノーズグラインドノーリーフリップアウト」。ラインセクションで「フロントサイドクルックドグラインドノーリーフリップアウト」をメイクしたこともあり類似トリックとしてスコアが伸びきらずも9.1ptをマークした。そんな彼に続いて9点台を出すかと思われたゴンザレスだったがトリックに失敗しハードスラム。惜しくも大会棄権となったが、彼が早く怪我から復帰できることを祈っている。
競技再開後、最初のライダーとなったヴィアンナだったが自分のライディングに集中し、ハンドレールで「キャバレリアルフロントサイドノーズスライドフェイキー」を綺麗にメイクして9.1ptをマーク。その後はヴィアンナに続いたヒューストンがリードを許さず「ノーリーヒールフリップバックサイドリップスライド to レギュラー」をメイクし9.3ptと3人が「9 CLUB」をスコアした。
2トライ目
ここでは大半のライダーがトリックをミスしてしまう展開に。ただそんな中でも着実にスコアのビハインドを取り返してきたのがリベイロ。また同じく15段ステアハンドレールで「トレフリップフロントサイドノーズブラントスライド」をメイクすると、1トライ目を上回る「9 Club」で9.2ptをマークして9点台を量産して順調にスコアアップしていく。
またシングルトリックセクションで強さを見せて、ここでもしっかりスコアアップしてきたのはヒューストン。1トライ目と同じく15段ステアハンドレールで「ノーリーフリップバックサイドテールスライドフェイキー」を決めると、こちらも「9 CLUB」の9.3ptをマークして1トライ目と同じスコアを残すと、優勝争いをリードするライディングを見せた。
3トライ目
この時点でまだスコアアップできていないジョスリンと、1トライ目で「スイッチヒールフリップバックサイドノーズグラインド」をメイクし8.6ptを残すも大きくビハインドを取っているグスタボにとっては、ここで「9 CLUB」を残しておかないと表彰台争いが厳しくなるこの3トライ目。そんな中、ここでなんとかスコアをマークしてきたのは前回の東京大会で「9 CLUB」を量産して会場を沸かしていたクリス・ジョスリン。1トライ目と2トライ目で失敗した15段ステア越えの「ノーリービックスピンフリップ」をメイクすると9.0ptをマーク。
そんなジョスリンに続く形で、シングルセクション絶好調のリベイロがラインセクションでのビハインドを取り戻すべく見事なトリックを見せる。「トレフリップフロントサイドボードスライド to フェイキー」を完璧に決めて見せて9.0ptをマーク。2022年シーズンにはタイトル獲得経験のあるリベイロが今年でのタイトル奪取を目指し着実にトリックメイクを重ねていく。
そしてしっかり2トライ目のミスをカバーして来たのは大会2連覇を狙うヴィアンナ。ヴィアンナはハンドレール 「キャバレリアルフロントサイドブランドスライド to フェイキー」をメイクし9.2ptをマーク。この時点でラインセクションのスコアを含めるとリベイロが4本をまとめ35.4ptに、そして続くのはシングルセクションで1本ミスがあるも3本とも「9 CLUB」でまとめているヒューストンとヴィアンナという順でタイトルを決める戦いは後半戦へ。
4トライ目
優勝争いも大詰めに差し掛かる中で、ここで優勝候補者たちが4本しっかりまとめ順位に変化が表れてくる展開に。まずここでは2本目と3本目とミスが続いていたフェリペ・グスタボが15段ステア越えの「スイッチヒールフリップ」をメイクして8.6ptをマークした中、続く優勝候補のリベイロがトリックミスでスコアを塗り替えられず。
そんな中でここでさらなるスコアアップを目指して、15段ステアのハンドレールで「ハーフキャブバックサイドスミスグラインド」をメイクしたのはヴィアンナ。本トリックも9点台が出るかと思われたが8.8ptと8点台に留まった。この得点には会場からも納得いかないようなリアクションが流れた。
そのヴィアンナに対してリードを広げたいヒューストンは、4トライ目で「スイッチヒールフリップフロントサイドボードスライド」をハンドレールでメイクし9.0ptをマーク。今までシングルトリックセクションでマークしたスコアは全部「9 CLUB」と驚異のライディングを見せてタイトル獲得に王手をかける展開に。この時点で暫定1位のヒューストンと2位のヴィアンナとの間には0.6ptの差があり、最低でも9.5pt以上のトリックをヴィアンナがメイクする必要がある中、最終トライに迎えた。
5トライ目
そして迎えた最終トライ。現在暫定1位はヒューストンだが、彼が9.4pt以上のスコアを残さない前提の中で、暫定3位のリベイロが9.6pt以上、暫定2位のヴィアンナが9.5pt以上のトリックをメイクできないと優勝に返り咲くことはできない極めて困難な展開となった。
その最終トライで9.4ptの高得点を残したのはジョスリン。15段ステア越えの「ノーリーインワードキックフリップバックサイド180」をメイクして会場を沸かせた。今回は優勝を期待されながらも、なかなか思う通りの試合運びをすることができなかったジョスリンだったが、この状況でしっかり決めて会場を盛り上げる彼の姿は勝ち負けだけじゃないスケートボードの魅力を感じさせた。
そのジョスリンのライディングに感化されてトリックが決まっていくかと思われたが、優勝争いに関わっていたリベイロとヴィアンナ含めラストトリックを決め切ることができずヒューストンが優勝。2010年にスタートしたこのSLSプロツアーだが、その初代王者が今回5年ぶりの7度目のタイトルという、今後この記録を塗り替えるものは現れないと思われるほどの快挙をヒューストンが成し遂げた。
最終結果
優勝 : ナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)36.8pt
2位 : ジオバンニ・ヴィアンナ(ブラジル)36.2pt
3位 : グスタボ・リベイロ(ポルトガル)35.4pt
4位 : クリス・ジョスリン(アメリカ合衆国)26.2pt
5位 : フェリペ・グスタボ(ブラジル)25.2pt
6位 : ジャンカルロス・ゴンザレス(コロンビア)8.8pt
最後に
今大会でインパクトがあったはやはり前人未到の快挙を残したナイジャ・ヒューストンの強さだろう。過去には2010年、2012年、2014年、そして2017年から2019年の3連覇と計6回のタイトル獲得を経験していた彼。多くのトップスケーターが世代交代をしたりと決勝の顔ぶれがコロコロと変わる中で、ずっと強さを維持続けることは尋常ではない。そして今回5年ぶりのタイトル獲得。彼の強さやスタイルがアップデートされていることを象徴する今大会の優勝だった。
またそのヒューストンの快挙の凄さを裏付けたのは、女子同様に男子カテゴリーでも起きている更なるレベルアップだ。もちろんいつも以上に激しい「9 CLUB」合戦になることが予感されていたが、表彰台メンバーで見てみると2位のヴィアンナと3位のリベイロは採用スコア4本のうち3本が「9 CLUB」。優勝したヒューストンに関しては4本全てを「9 CLUB」揃えるレベルの高さ。今となっては優勝争いだけではなく表彰台に上がるにも「9 CLUB」を量産しないといけないほどのレベルになっている。来年はアベレージが「9 CLUB」になるような戦いになるのだろうか。
今回は惜しくも日本人ライダーたちは決勝進出はならなかったが、東京大会を振り返ってみても日本人のレベルは年々上がっていることは言うまでもない上、来年はもっと多くのSLSルーキーが日本人の中から現れることだろう。2025年シーズンでは今回のような「9 CLUB」合戦の中心が日本人ライダーになることを期待したい。
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