2024年シーズン初戦は波乱の展開。そんな中で強さを見せたのは赤間凛音「WST Dubai Street 2024」女子決勝 | CURRENT

2024年シーズン初戦は波乱の展開。そんな中で強さを見せたのは赤間凛音「WST Dubai Street 2024」女子決勝

| 2024.03.13
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2024年シーズンのパリ五輪予選大会初戦かつフェーズ1の最終戦となる「WST Dubai Street 2024」女子決勝がアラブ首長国連邦のドバイにて現地時間2024年3月10日(日)に開催された。

パリ五輪予選大会シリーズとして、次戦となるフェーズ2へは今大会の結果に昨シーズンの結果に加えた世界ランキングポイントに基づいて選出された44名の選手に出場権が与えられるため、そ世界中からパリ五輪出場を目指す多くのトップ選手たちが今大会へ出場し、とりわけ現在ランク外の選手たちにとっては何としてでも良い成績を残してフェーズ2に駒を進めたいと思う中で熾烈な戦いが繰り広げられた。

そしてなんと今回は特に日本人選手たちにとっては波乱の展開に。世界ランキング1位で東京五輪金メダリストである西矢椛世界ランキング3位で昨年世界選手権で優勝した織田夢海、そして世界ランキング6位東京五輪銅メダリストである中山楓奈が準決勝で姿を消すという昨シーズンでは見られなかった形での幕開けとなった。

一方で海外からは世界大会メダル常連選手のブラジルのライッサ・レアウとオーストラリアのクロエ・コベル、そしてアジア大会で優勝した中国の逸材のチェンシー・チーが決勝へ勝ち上がり誰が初戦を制すかに注目が集まった。

本決勝は全75名の出場者の中、予選・準々決勝・準決勝を勝ち上がった合計8名で競われる形。今大会のスタートリストは伊藤美優藤澤虹々可吉沢恋赤間凛音松本雪聖、チェンシー・チー(中国)ライッサ・レアウ(ブラジル)クロエ・コベル (オーストラリア)の順となり、過半数が日本人選手という展開となった。

決勝フォーマットはオリンピックルールに基づき、45秒間のラン2本に加えてベストトリック5本へトライする中から、ベストスコアであるラン1本とベストトリック2本を合わせた計3本の合計得点として採用される形。特に西矢、織田、中山が不在となった一方で、WSTシリーズにて決勝初進出した松本や、フェーズ2には各国から最大6人しか出場できないこともあり、今大会前の時点で世界ランキングの国別では8番手である藤澤や現在6番手で当落線上にいる伊藤にとっても気が抜けず特に日本人選手たちの争いに注目が集まった。

大会レポート

【ラン1本目】

毎度ではあるが、自分の精神状態も含めて決勝を有利に進めていくためには、しっかりここで良いスコアを残せるか重要となるラン1本目。オリンピックルールではラン2本目のうちの良い方のスコアが採用されることから、余裕を持って2本目にトライするには1本目である程度のスコアを残しておくことが必要となる。そんなプレッシャーもあるからか、各選手が抑えたり、攻めた結果ミスが見られる中で80点台後半の高得点を残したのが赤間コベルだ。

周りの選手がミスしたり得点を伸ばせずにいる中で、自分のペースを崩さず高得点を残したのは赤間凛音。他の選手がなかなかメイクしない独特なトリックスタイルが魅力である赤間は、「フロントサイドフィーブルグラインド」を皮切りに、「バーレーグラインド180アウト」や「フロントサイドビックスピンヒールフリップ」を決めて見事フルメイクでランを終えると87.84ptをマークした。

そんな赤間の得点を超えるランを見せたのはオーストラリアのスーパースターであるクロエ・コベル。様々なフリップ系のトリックを得意とする彼女は「キックフリップ」を中心にしたランで5段のステアでの「スイッチキックフリップ」や、「ヒールフリップ」や「フロントサイド50-50 to キックフリップアウト」など高難度トリックをふんだんに盛り込んだライディングを見せると89.88ptをマークして幸先良いスタートを切った。

【ラン2本目】

ラン2本目では、1本目であまり得点を伸ばせなかった選手たちが改善を見せた印象を受ける中、多くの選手が80点台のスコアを残すというハイレベルな戦いが繰り広げられた。その中でも特に高得点を残したのはレアウコベルだ。

ラン1本目ではラストトリックの「キックフリップフロントサイドボードスライド」でミスし得点を伸ばせないでいたライッサ・レアウ。2本目では見事修正し「キックフリップフロントサイドブラントスライド」や「トレフリップ」、「キックフリップバックサイド50-50グラインド」などを決め切り、ランをフルメイクで終えるとベストスコアを84.16ptへ引き上げた。

今大会準決勝トップ通過で決勝を迎えており絶好調なコベル。ラン1本目でも高得点を残した彼女はさらに1本目のトリックの完成度上げ、かつ高難度トリックへ変更したライディングを2本目で見せる。様々なフリップトリックをよりクリーンに決めていく中、「フロントサイドノーズグラインド to ノーリーフリップアウト」を新たにメイク。1本目のスコアを4pt近く上回るも93.49ptをマークし、他選手に大きくリードした状態でベストトリックを迎える形となった。

【ベストトリック1本目】

ラン2本を終えた時点で比較的に選手同士の得点は拮抗しており、ベストトリックの結果で次第で十分巻き返すチャンスがある中で、ひとまず1本しっかり決めておきたい1本目。実際にここでは5名の選手がトリックをメイクし、そのうち4名は80点台後半をマークするなどハイレベルな戦いが繰り広げられた。

そんな各選手が80点台後半を残す中でトップスコアの88.76ptをマークしたのは藤澤虹々可。他の選手たちとは異なるトリックチョイスで「バックサイドポップショービットフロントサイド50-50グラインド」をメイク。藤澤自身もこの高難度トリックを決めた時は笑顔で喜ぶ様子も見られた。藤澤はWSTシリーズにて初の決勝進出となったが、彼女の独特なスタイルと楽しみながらライディングする姿はMCを含め会場を大きく沸かしていた。

またその藤澤の得点に迫るスコアを残したのは中国のチェンシー・チー。ランではミスが続きスコアを29.12ptと伸ばせずにいたが、バンプ to レッジで決めた「キックフリップバックサイド50-50グラインド」は87.31ptの評価を受けた。彼女は準決勝を3位で通過するなど着実に力をつけて決勝進出常連組として定着している。ベストトリックでの強さが確実なものであるため、今後のランセクションでの改善次第でメダル争いに食い込む選手になるであろう。

【ベストトリック2本目】

2本目では1本目以上のハイスコアが連発し選手たちのベストトリックの感覚が温まってきた様子が垣間見れた。そんな中でまず85点オーバーに乗せてきたのは吉沢恋。1本目の赤間の同トリックである「フロントサイドハリケーングラインド」をハンドレールでメイクすると87.52ptをマークした。

しかしその吉沢の得点を超えて今回ベストトリックで初となる90点台を叩き出したのはレアウ。余裕のある完成度の高い「キックフリップバックサイドリップスライド」をメイクすると90.15ptをマークした。

そんなレアウに続き90点台をマークしたのはコベル。彼女の代名詞である「フロントサイドキックフリップ」をメイクすると90.14ptをマークし、ラン2本目の93.49ptに加えて着実にポイントを加算させてきた。徐々にベストトリックでも90点台が出てくる展開に、どの選手も残り3本でのハイスコアが求められ、さらに凌ぎを削る戦いへ移っていく。

【ベストトリック3本目】

レアウとコベルに90点台がスコアされた2本目を経て迎えた3本目では、各選手はさらなる高難度トリックチョイスでスコアアップに挑む。その中で特に高得点をマークするトリックをメイクしたのは赤間。「フロントサイドフィーブルグラインド to フロントサイド180アウト」をバッチリ決めると89.93ptがスコアされ、1本目の「フロントサイドハリケーングラインド」で86.48pt、2本目の「バックサイドバーレーグラインド to フェイキー」で81.19ptに続いてコンスタントに高得点を残し、3本目終了時には暫定2位をキープし優勝争いに食い込んだ。

同じく赤間の得点に迫るハイスコアを残したのは、今大会の予選から勝ち上がりWSTシリーズで初の決勝進出を果たした松本雪聖。ランでは高難度トリックを安定してメイクし83.19ptをトップスコアとしていた彼女は、3本目にハンドレールで「キックフリップバックサイド50-50グラインド」というとりわけバランス力が必要とされるトリックを決めると88.91ptをマークし、世界最高峰でも戦える強さを見せた。

【ベストトリック4本目】

ベストトリック合戦も佳境に迫る中、メダル獲得にはここでベストスコアを残しておきたい4本目。しかしそんなプレッシャーを感じ始めたのか、各選手が超高難度トリックにトライするもミス。そんな4本目で決めたのは伊藤コベルだ。

3本目までは「フロントサイドブラントスライド」のメイクに苦戦していた伊藤美優は3本目で見事にメイクし86.48ptをマークすると、この4本目では「キックフリップフロントサイドボードスライド」を綺麗に決めて86.27ptをマークした。この後の5本目ではステアでの「ハードフリップ」にトライしミスするも、国別の世界ランキングでは6番手であり当落線上にいた彼女は今大会の結果でその座を死守。見事フェーズ2へ駒を進めた。

【ベストトリック5本目】

4本目を終えた時点で、注目となったのは暫定1位と2位で優勝争いをしていた赤間コベルの戦いと、暫定3位の吉沢を暫定8位のリアウがオーバーテイクできるかがどうかだ。

また5本目のラストトリックに吉沢が最後に選んだのは「バックサイドノーズスライド270ショービットアウト」。残念ながらメイクできず暫定3位をキープする形に。そしてなんとか3位までジャンプアップしたい暫定8位のレアウのラストトライ。3位へ上がるには79.49ptが必要であり、レアウにとっては十分に獲得できる得点。そんな局面にレアウが選んだのは「キックフリップバックサイドスミスグラインド」だったが、惜しくも失敗し点数伸ばせずに8位で大会を終えることになった。ここ最近のパフォーマンスを見るとレアウらしくない結果だが、一方でそれだけ彼女にプレッシャーを与えるほどレベルの高い戦いになっているのも垣間見れる。

最後は優勝争いをしていた赤間コベルの戦い。まずラストトリックで誰もメイクできず苦戦を強いられる中、完璧なトリックを見せたのは赤間。「フロントサイド270フェイキー」という難しい体勢から繰り出される超高難度トリックを綺麗に決めると、普段温厚な彼女も喜びを露わにした。そんなトリックにつけられたスコアは本決勝のベストトリック最高得点の93.17ptでコベルを上回り暫定1位へ。そんな赤間のスコアを超えるためにコベルに必要となったのは87.32pt。コベルがラストトリックにトライしたのはおそらく「バックサイドクルックドグラインドノーリーキックフリップアウト」だったが滑って失敗。この時点で赤間の優勝が決まり、本人も少し嬉し涙を浮かべる様子も見られ2023年のWSTローマ大会以来の優勝を喜んでいた。フェーズ2を前に幸先良いスタートを切った赤間の今後の活躍に注目だ。

【大会結果】

優勝 赤間 凛音 (日本) / 270.84pt
2位 クロエ・コベル (オーストラリア) / 267.29pt
3位 吉沢 恋 (日本) / 253.79pt
4位 松本 雪聖 (日本)/ 250.52pt
5位 伊藤 美優 (日本) / 243.98pt
6位 藤澤 虹々可 (日本) / 231.09pt
7位 チェンシー・チー(中国) / 202.98pt
8位 ライッサ・レアウ(ブラジル) / 174.31pt

最後に

筆者が今大会で印象に残ったのは日本人選手全体のレベルの急激な向上だ。本決勝に先立っておそらく我々を驚かせたのは西矢織田中山が決勝進出を逃すという前代未聞の展開だろう。一方でWSTシリーズで決勝初進出を果たした藤澤松本が力を見せるなど、新たな顔ぶれが決勝に残るなど上位に勝ち上がる日本人選手たちの層が厚くなってきたように思える。

そして今大会でフェーズ1が終了したので、再度現在の世界ランキングを振り返ってみる。実際今回の結果に応じて世界ランキングの大きな変更はなかったため、フェーズ2へ進む日本人選手同士の戦いもここで終了。なお各国から最大6名が出場できることから、日本からは西矢椛(世界ランキング1位)織田夢海(世界ランキング3位)、赤間凛音(世界ランキング5位)、中山楓奈(世界ランキング6位)、吉沢恋(世界ランキング7位)、伊藤美優(世界ランキング9位)の6名がフェーズ2へ進むことになった。

さて5月からはフェーズ2として、いよいよ一発大逆転が起きうる最大25万点が配分されている「五輪予選シリーズ2024(OQS)」の2試合が控えている。本フェーズにて日本人選手内でも6人の中から3名がパリ五輪出場権を獲得できるため、今大会で最高のスタートを切った赤間をはじめ、今回惜しくも決勝進出を逃したものの世界最高としては確かな実力を保持している西矢、織田中山、また彼らを追随する吉沢伊藤の活躍も含めどんな戦いが繰り広げられるのかに今後も注目だ。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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