2024年シーズン初戦も日本人選手たちが強さを示す!「WST Dubai Street 2024」男子決勝 | CURRENT

2024年シーズン初戦も日本人選手たちが強さを示す!「WST Dubai Street 2024」男子決勝

| 2024.03.12
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2024年シーズンのパリ五輪予選大会初戦となる「WST Dubai Street 2024」男子決勝がアラブ首長国連邦のドバイにて現地時間2024年3月10日(日)に開催された。

今大会はパリ五輪予選大会の中ではフェーズ1の最終戦。昨シーズンの結果に加えて今大会終了時の世界ランキングポイントに基づいて選出された44名の選手にフェーズ2への出場権が与えられることから、現在ランク外の選手たちにとってはパリ五輪出場権争いを賭けたラストチャンス。なんとか次のフェーズ2へ駒を進めるため、世界中からパリ五輪出場を目指す多くのトップ選手たちがここドバイに集まった。

今回、昨シーズン終了時点で世界ランキング1位のナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)、世界ランキング3位のオーレリアン・ジロー(フランス)が出場を見送る一方で、大会は波乱の展開に。東京五輪金メダリストである堀米雄斗や、昨シーズンからコンスタントに好成績を残しているコルダーノ・ラッセル (カナダ)、フランスの実力者ヴィンセント・ミルー(フランス)が準決勝で姿を消した。

本決勝は全127名の出場者の中、予選・準々決勝・準決勝と狭き門を勝ち上がった合計8名で競われた。前述したように決勝常連選手たちが早々に姿を消す厳しい戦いが繰り広げられる中で、決勝進出者のスタートリストはライアン・ディセンゾ (カナダ)青木勇貴斗、小野寺吟雲、マット・バージャー (カナダ)根附海龍グスタボ・リベイロ (ポルトガル)リチャード・トゥーリー(スロバキア)白井空良の順。半数を日本人選手が占め、昨シーズンから引き続き改めて日本の強さを見せる展開となった。

決勝フォーマットはオリンピックルールに基づき、45秒間のラン2本に加えてベストトリック5本へトライするうち、ベストスコアであるラン1本とベストトリック2本を合わせた計3本の合計得点として採用される形。今回も選手たちの各ライディングにおける一挙手一投足が順位に大きく影響するようなミスが許せない戦いとなった。

大会レポート

【ラン1本目】

確実にラン2本目の内、良い方のスコアが採用されるオリンピックルールにおいては、メダル獲得を成し遂げる上でランでの高得点獲得は定石なのだが、同時に決勝という計り知れない緊張感の中で、45秒間ノーミスかつ高難度トリックを盛り込むことが必要となるランセクションは、選手たちにとっても高度なメンタルゲームとなった。そんな中で1本目から80点台後半の高得点を残したのは根附海龍グスタボ・リベイロだ。

一番走者としてカナダのベテランスケーターであるライアン・ディセンゾがノーミスのランで終える一方で、その後ミスをする選手が多く嫌な雰囲気が漂い始めた中、その空気を打ち破ったのは根附海龍。昨シーズンの世界選手権で準優勝を果たして良い流れで今シーズンを迎えている根附は、決勝ラン1本目から「ビックスピンフロントボードスライドフェイキー」やクオーターで「キャバレリアルヒールフリップ」、「ヒールフリップバックサイドリップスライド」をメイクし85.21ptと高得点をマーク。

その根附に続いてハイスコアを残したのはグスタボ・リベイロ。真剣な面持ちで集中している様子が見られた彼は、バンプ to レッジでの「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーフリップアウト」や「トレフリップフロントサイド50-50グラインド」など高難度トリックを決めてフルメイクでランを終えると少しほっとした様子も見られた。

【ラン2本目】

ラン2本目では1本目でミスがあった選手が盛り返す一方、1本目で良い得点を残した選手はミスが続く中、80点台をマークしたのはディセンゾ青木勇貴斗だった。ラン2本ともしっかりノーミスでまとめてかつ1本目より2本目でスコアを上げてくるあたりはディセンゾの長年の経験が成す技を感じられた。

そんなランをアップデートして2本目で得点を伸ばしたディセンゾは、「キックフリップフロントサイドリップスライド」や「スイッチフロントサイド270フロントサイドリップスライド」、最後には「フロントサイドキックフリップ・オーバー・ザ・ハバ」で終えるとベストスコアを82.18ptへ引き上げた。近年若手選手が台頭している中でベテランが力を見せる一面に、年齢関係なく競い合えるこのスケートボード競技の特徴が垣間見れた。

また1本目のミスを大きく改善してベストトリックに良い流れで繋いだのは、東京オリンピック日本代表であり世界的にも評価されている実力者の青木勇貴斗。「ノーリービックスピンバックサイドリップスライド」や、ラン1本目でミスしたロングレッジでの「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーヒールフリップアウト」。最後は「キャバレリアルバックサイドリップスライド」を決めるとランをフルメイクでまとめて84.92ptとした。

【ベストトリック1本目】

ラン2本を終えた時点で、うまく高得点をマークした選手たちがいる一方で、準決勝までランでも力強いライディングを見せていた白井空良がフルメイクできず、暫定トップのリベイロと20点近く差を付けられて苦戦を強いられる中、どちらの立場であってもしっかり決めて優位に進めたいベストトリック1本目。しかし独特な緊張感も相まってか1本目ではほとんどの選手がミス、唯一トリックを決めた小野寺白井が90点台が叩き出すといった超高難度トリックをトライし合う攻防が始まった。

まず90点台の得点を叩き出し、この熾烈な戦いをスタートさせたのは弱冠13歳の小野寺だ。先発の選手がミスを重ねる中、その空気に飲まれず正確な「キックフリップフロントサイドブラントスライドビックスピンアウト」をメイクすると92.24ptをマーク。ランでは両方ともミスをしており得点を伸ばせなかったため、なんとか決めておきたい局面でしっかり決め切った瞬間は喜びが溢れガッズポーズを見せた。

そして1本目で小野寺同様に決めておきたかったのは唯一無二のトリックの持ち主として名高い白井空良。「フェイキーキャバレリアルバックサイドテールスライドビックスピンアウト」を中央のハバレッジで決めると94.14ptという超高得点をマーク。軽々と高難度トリックを決める姿は彼の底知れぬレベルの高さを感じさせた。

【ベストトリック2本目】

2本目では1本目でのミスをカバーするために、選手たちが再度同じ高難度トリックをチョイスするも決められずミスが多くなった印象。そんな中で2本連続でトリックを決めて見せたのは白井小野寺だけであり、そこに食い下がる形でリベイロもトリックを決めてくる構図になった。

1本目同様に安定してトリックを決めて、ここでもしっかりスコアに繋げたのは小野寺。1本目のトリックを派生させた「ビッグスピンフリップフロントサイドボードスライドビッグスピンアウト」をメイクすると89.95ptをマークした。1本目同様に大技の連続成功に本人も納得の表情を見せた。

続いて1本目のミスを取り戻すようにしっかりトリックをメイクしてきたのはリベイロ。自身の得意とするフリップ系のトリックとの複合技である「トレフリップフロントサイドノーズグラインド」にトライするもノーズグラインドが掛かっていなかったのこともあり減点。得点を伸ばせずも84.29ptをマークした。

そして1本目の勢いをそのままにトリックをメイクした白井は、ベストトリック2本目では「ノーリービックスピンバックサイドテールスライド」を決めると89.75ptをマーク。ランセクションでビハインドを追った得点差を埋めるべく次々高難度トリックを見せていく一方で誰よりも楽しんでいる様子が印象的だった。

【ベストトリック3本目】

大半の選手が各々の高難度トリックをミスした2本目とは対照的に、3本目ではベストトリックの感覚が温まってきたからか、2本とも外していた根附トゥーリーディセンゾが見事に修正。一方で1本目、2本目とメイクしていた小野寺白井が失敗する展開となった。

まず負の流れを断ち切ったのはディセンゾ。ベテランの彼ならではの玄人向けのトリックである「ノーリーヒールフリップバックサイドノーズスライド」をしっかり決めると85.82ptをマーク。そしてディセンゾに続きこの3本目でしっかり1本まとめてきたのは根附。MCにはヒールフリップマスターとも呼ばれていた彼は「ヒールフリップバックサイドテールスライド to フェイキー」をメイクし85.36ptというマーク。

そんな根附の後にライディングしたリベイロは「ビガーフリップフロントサイドボードスライドフェイキー」をメイクすると90.11ptを叩き出し、暫定1位にジャンプアップすると優勝争いを周りの選手に意識させた。このスコアが表示された瞬間にリベイロ自身も声を上げて喜ぶ様子も見せた。

そして本決勝ではランセクションからミスが続いていたリチャード・トゥーリー。いつもコンスタントな成績を残して決勝常連組の一人になっている彼だが、ここではハンドレールで「ビッグスピンヒールフリップバックサイドボードスライド」を決めると83.14ptをマークした。

【ベストトリック4本目】

決勝も終盤となり、表彰台に上がるには大半の選手にとってもうミスは許されない4本目。ここでまた優勝争いが激化する展開となったがしっかりメイクしてきたのはバージャー根附トゥーリーの3人だった。

まずここでようやく今回のベストトリックで1本決めて見せたのはマット・バージャー。玄人向けのスタイリッシュなトリックを得意とする彼は、なかなか決められず苦しい時間を過ごしていたが、ここ4本目で「ノーリーフロントサイドベネットグラインド」をハバセクションでメイク。他選手が見せるコンボトリックとは異なりシンプルな技であるがその難易度と完成度が評価され、90.88ptの評価がついた。

そんなバージャーに続いたのは根附。ランセクションとベストトリックで80点台中盤のスコアを残している彼は、ここで決めるトリックによっては大きく優勝争いに絡む可能性がある中で迎えた4本目で「ノーリーインワードヒールフリップフロントサイドボードスライド」をメイク。ヒールフリップを極めてきた根附だからこそ、可能になるこの独創性溢れる高難度トリックにジャッジは93.17ptをつけると暫定1位まで浮上。しかし暫定2位のリベイロとの得点差はわずか0.04ptとまだまだ油断できない状態であったが、その後リベイロは4本目でミス。この2人の戦いは最後の1本に委ねられた。

そしてこの4本目の最後にもう一つ安定してトリックを見せたのは、3本目でしっかり決めてきたトゥーリー。そんな彼がメイクしたのは「バリアルヒールフリップバックサイド50-50グラインド」で84.84ptをマークした。

【ベストトリック5本目】

4本目を終えた時点で注目となったのは根附リベイロの優勝争いで、わずか0.04ptの得点差だったことから、どちらかがこの最後の一本で少しでも良いスコアを残せればその時点で勝敗は決まるような展開。しかしそんなプレッシャーもあったからか、この5本目をメイクできたのは白井ただ1人だった。

まずは暫定1位の根附のラストトライ。最後にチョイスしたのは「ヒールフリップバックサイドノーズブラントスライド」だったが惜しくも失敗。その後、優勝に返り咲くべく暫定2位のリベイロが最後にトライしたのは「トレフリップフロントサイドノーズブラントスライド」。残念ながら惜しくもメイクとならず2位という結果となったが、この成績によって世界ランキングを3位まで押し上げてフェーズ2に駒を進める形となった。コンスタントに結果を残している彼は今シーズンも幸先良いスタートを切った。

同時にこの瞬間、根附の優勝がほぼ決まり順位に変動はなく大会を終えることとなった。昨シーズンは世界選手権で2位となり確実に実力と調子を上げている彼。この良い流れで迎えるフェーズ2での活躍にも注目だ。

そして何より今大会最高の盛り上がりを見せたのが白井空良のライディング。優勝には99.63pt以上が必要となるほぼ不可能と言える得点差を前に、ラストは「フェイキーキャバレリアルシュガーケーングラインド」を見事にメイク。この超高難度トリックのメイクを目にした会場からは歓声が沸き、観客、MC、選手全員が驚きと称賛を彼に示していた。得点は惜しくも99.63ptには届かなかったが、WSTシリーズ過去最高得点となる97.07ptをマークした。

昨シーズンは怪我の経験を乗り越えて、世界選手権での優勝を果たすなど良い一年を過ごした彼だったが、今年は更にレベルアップしている姿をこの大会で見せてくれた。彼の計り知れないポテンシャルを感じさせたパフォーマンスでもありパリ五輪も含め、今後どう彼が我々を驚かせてくれるのかは想像ができない。彼の2024年にも期待していきたいと思う。

【大会結果】

優勝 根附 海龍 (日本) / 263.74pt
2位 グスタボ・リベイロ (ポルトガル) / 263.70pt
3位 白井 空良 (日本) / 261.19pt
4位 小野寺 吟雲 (日本) / 241.77pt
5位 リチャード・トゥーリー (スロバキア) / 219.32pt
6位 ライアン・ディセンゾ (カナダ) / 168.00pt
7位 マット・バージャー (カナダ) / 159.37pt
8位 青木 勇貴斗 (日本) / 84.92pt

最後に

筆者が個人的に今大会で印象に残ったのは、白井空良のパフォーマンスと彼の大会への挑み方だ。持ちろん彼の持つトリックレベルの高さやそれが決まった時の爆発力は圧倒的なものがあることは明確である。ただそんな中で気になったのは今大会の白井は決勝という場においても終始楽しそうに滑っている姿だったことだ。

実際にランでは2本ともミスがあり満足いくスコアは残せなかったものの、ミスした後は会場を沸かせるような滑りを見せるなど誰よりも大会を楽しんでいるように見えた。さらにベストトリックでの過去最高得点が残せたのも、彼が楽しみながらやることで良い意味で肩の力が抜けていたからだろう。スケートボードの大会は近年、競技独特のバチバチした戦いが多い中で、今回の白井のパフォーマンスからスケートボード本来の楽しみ方やスケートボード固有のカルチャーの魅力を感じられた。

さて今大会でフェーズ1が終了したので、再度現在の世界ランキングを振り返ってみよう。今大会の結果を経て、現在の日本人別世界ランキングはトップが世界ランキング1位で白井空良、白井に続き今回優勝した根附海龍が世界ランキング5位、同じく決勝に残った小野寺吟雲が世界ランキング6位と順位が少し変動今回惜しくも決勝には残れなかった堀米雄斗は引き続き世界ランキング7位を維持、佐々木音憧も同じく世界ランキング10位を維持している。

そんな中でいよいよ迎えるパリ五輪予選大会のフェーズ2。フェーズ2には今大会までの世界ランキングポイントに基づいて選出された44名の選手が参加できるが、度々言及しているように本フェーズの「五輪予選シリーズ2024(OQS)」の2試合に関しては超高得点配分がされている。そのことから1大会で一発大逆転が容易に起きうる展開になっているため、選手たちにとってもここからが本当の意味でパリ五輪出場権争いと位置付けているだろう。誰がパリ五輪出場権を獲得するのか気になる展開になってきた。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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