大舞台での初タイトルをSLS SUPER CROWNで勝ち取る快挙「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」MEN’S FINAL | CURRENT

大舞台での初タイトルをSLS SUPER CROWNで勝ち取る快挙「2023 SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」MEN’S FINAL

| 2023.12.06
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2023年12月2日(土)~3日(日)の2日間に渡り、世界最大のスケートボード・ストリート種目の大会として名高い、SLS(ストリートリーグスケートボーディング)の2023年シーズン最終戦である「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」がブラジル・サンパウロにて開催された。

世界中から選ばれたストリート種目の実力者だけが出場できるのがこの「SLS World Championship Tour」。そのツアーの中でも年間を通して顕著な成績を残した選手と、「SLS SELECT SERIES」という予選大会での優勝者のみが招待され、SLSシリーズにおける世界チャンピオンの座をかけて争うのがこの「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」だ。

そんな「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」の男子カテゴリーは今回波乱の展開。過去に4度のSUPER CROWNの優勝という最多記録を持ち、今大会の優勝候補の一人であったナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)はノックアウトラウンド敗退。また東京オリンピック金メダリストで今年のSLS東京大会の優勝者である堀米雄斗は大会直前に負った尾骨を痛める怪我で出場を棄権。また日本人選手の出場者であり今年のSLSシリーズでは好成績を残した池田大暉根附海龍も決勝進出は敵わなかった。

本決勝は全30名の出場者の中、6名1グループのノックアウトラウンドから各グループで1位通過した5人と、セカンドチャンスとして1位通過した5名を除いた出場者全体のなかでトップスコアを残した1人を加えた合計6名で競われる形。そんな狭き門をくぐり抜けた選手たちの顔ぶれが揃ったスタートリストはライアン・ディセンゾ (カナダ)、グスタボ・リベイロ  (ポルトガル)、マウリオ・マッコイ (アメリカ合衆国) 、ジオバンニ・ヴィアンナ (ブラジル) 、フェリペ・グスタボ (ブラジル) 、ヴィンセント・ミルー (フランス)の順となった。

決勝フォーマットは、女子と同様にラインセクションによる45秒間のラン2本に加えて、シングルトリックセクションでベストトリック5本にトライする中で、ベストスコアである計4本(ランは最大1本のみ換算)が合計得点として採用される形に。なお今大会のコースはブラジル・サンパウロの「ジナシオ・ド・イビラプエラ」というスタジアムの中に特設された。コース内には大小様々なクオーターやステア、レッジそして特徴的なロングレールなどユニークで多種多様なセクションが設置され、各選手が持つライディングの強みやトリックのオリジナリティを十二分に発揮できるまさに世界チャンピオンを決めるのにふさわしい環境で大会が開催された。

大会レポート

【ラインセクション1本目】 

ベテランを中心に歴戦の実力者が駒を進めた本決勝。ラン1本目でまず他選手を圧倒するライディングを見せたのは昨年のSUPER CROWNの勝者でディフェンディングチャンピオンとして出場したグスタボ・リベイロ (ポルトガル)。ノックアウトラウンドではいまいち納得のいくライディングができていなかった彼が決勝ではしっかり強さを見せた。ハバセクションでの「トレフリップ フロントサイド50-50グラインドや、レールで「トレフリップフロントサイドノーズブラントスライド」などをメイク。ランの最後には彼のシグネチャートリックでもある「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーキックフリップアウト」を決めるランで9 Clubである9.3ptをマークした。

そんなリベイロに続く形でこの1本目で唯一8点台を残したのがブラジルのジオバンニ・ヴィアンナ。他の選手には無い独特なライディングスタイルを強みとするヴィアンナは「フェイキーフロントサイドテールスライド」や「フロントサイドブラントスライド」、そしてダウンレッジを「フロントサイド50-50グラインド」で登り会場を沸かせるなど、彼のオリジナリティが盛り込まれたノーミスのランで8.5ptをマークして幸先の良いスタートを切った。

【ラインセクション2本目】

1本目のリベイロのライディングに感化されたのか、選手の多くがスコアを伸ばしてきた2本目。その中でリベイロの9.3ptに匹敵する9 Clubを叩き出してきたのはヴィアンナヴィンセント・ミルー (フランス)だ。

長いプロキャリアを持っていながら今までほとんど大会での優勝経験が無かったジオバンニ・ヴィアンナ。しかし先月同じくブラジルで行われたSTUでは2位、9月に行われたWSTローザンヌでは3位と今シーズンを通して良い流れを作れている彼は、トリックのコンボを上手く活かし1本目を上回るライディングを見せる。中盤では「ヒールフリップフロントサイドボードスライド」をメイクし、最後には「キャバレリアルバックサイドテールスライドフェイキー」を決めると9.1ptまで得点を引き上げて9 Clubをマークした。

そんなヴィアンナに続いて、この2本目でランの最高得点を叩き出したのがヴィンセント・ミルー。オールドスクールな動きを取り入れながらも高難度ルーティンに昇華していたライディングが特徴的な彼は「キックフリップフロントサイドリップスライド」や「スイッチキックフリップフロントサイドボードスライド」など高難度トリックを次々と決めてノーミスでライディングを終えると9.4ptをマークした。

【シングルトリック1本目】

女子と同様だが、SLSルールは近年のパリ五輪予選で採用されているオリンピックルールと異なり、ランで高得点が残せなくてもこのセクションで十分に逆転が可能なフォーマット。そのため一つのベストトリックの得点次第で順位が入れ替わる可能性はあるものの、やはりランセクションで高得点を上げた選手たちが余裕を持って優位にシングルトリックセッションを進めていく様子が見られた。

シングルトリックセッション1本目は、トリックを失敗する選手と見事メイクして8点台に乗せる選手が半々に分かれる展開にまずここでしっかり決めてきたのは前回のシドニー大会の優勝者であるフェリペ・グスタボ (ブラジル)。ラインセクションでは7点台とビハインドを負った彼が「ノーリーキックフリップバックサイドクルックドグラインド」をメイクし8.5ptをマーク。

グスタボに続く形でラインセクションでの勢いをそのまま持ってきたヴィアンナが「キャバレリアルフロントサイドノーズスライドフェイキー」で8.8ptを、そしてミルーが「キックフリップフロントテールスライド」を10段のステアのハンドレールでメイクし同じく8.8ptをマークした。

【シングルトリック2本目】

1本目を終えて徐々に選手たちのパフォーマンスの調子に優劣が見え始めた中、まず2本目でしっかりトリックをメイクしてきたのはベテランのライアン・ディセンゾ (カナダ)。1本で失敗した「ノーリーヒールフリップバックサイドノーズスライド」をハンドレールでメイクすると8.6ptをマーク。

ランセクションとシングルトリック1本目と勢いが止まることを知らないのがヴィアン。得意なキャバレリアルの入りからハンドレールでメイクしたのは「キャバレリアルフロントサイドブラントスライドフェイキー」。ランセクション2本目に続く9 Clubで9.1ptをマークしてリードを伸ばしていく。

そんなヴィアンナの様子をただ見ているだけにはいかないのがリベイロ。ここではしっかり「トレフリップフロントサイドブラントスライドフェイキー」をメイクして8.9ptでまとめる。また一方でヴィアンナ同様にモメンタムをキープしてきたのがミルー。ここ2本目では「スイッチキックフリップバックサイドリップスライド」をメイクすると9.1ptをマーク。神様のいたずらなのかシングルトリックに入ってから同じスコアを残していくヴィアンナミルー。後述することになるがこの2人が最後まで熾烈な接戦を繰り広げることとなる。

【シングルトリック3本目】

9 Clubが連発した2本目だったが、3本目でもその流れは止まらなかった。6人中4人がトリックに失敗する中、シドニー大会に引き続き地元ブラジルで優勝を成し遂げたいグスタボが「ノーリーキックフリップフロントサイドノーズスライド」を綺麗にメイクすると9.3ptをマークし9 Clubの流れに続く。

その後、各選手のトリックミスが続くも自分のペースを崩さず、ミルーが「スイッチキックフリップフロントリップスライド」をメイクし9.0ptとまた9 Clubをマーク。このミルーの得点により、僅差であったヴィアンナやリベイロを含む後続選手との差を広げて優勝争いが大きく動き出す展開となった。

【シングルトリック4本目】

ミルーに大きくリードを許す展開で迎えたシングルトリック4本目だったが、ここで優勝争いは固まっていくこととなる。3本目と同様に6人中4人がトリックに失敗する中でトリックをしっかりメイクしたのはヴィアンナリベイロ。3本目でミスをしてしまいミルーにリードを許してしまったヴィアンナだったが「フェイキーフロントサイド180・バックサイドスミスグラインド」を決めると本決勝最高得点の9.4ptをマークし、ミルーを0.1pt差で追い上げて暫定トップまでジャンプアップ。

そんなヴィアンナに続いたリベイロはなんとか優勝争いに食い込むべく、3本目に失敗した「トレフリップフロントサイドノーズブラントスライド」をメイクするも9 Clubには届かない8.9ptとなった。この時点で最後1本を目前にヴィアンナ対ミルーによる優勝争いとリベイロが3位の座を守り切れるのかどうかという構図が確立された。

【シングルトリック5本目】

そんな熾烈な接戦の中で迎えた5本目。4本目を終えた時点での暫定ランキング順での滑走となり、マッコイ、ディセンゾ、グスタボ、リベイロ、ミルー、ヴィアンナの順となった。前半の3名はマッコイグスタボがトリックを決めきれない中、ディセンゾがバンプから飛び出す「ギャップアウト・フロントサイドキックフリップ」をメイクして会場を沸かせて8.0ptをマークした。

この時点でリベイロの3位入賞は確定した一方で、ラストトリックは決めきれず2年連続のSUPER CROWN優勝とはならなかった。そして注目されたのはヴィアンナミルーの1位2位争いだが、ミルーがラストトリックを残し、逆転には9.0pt以上が必要となる状況の中「バックサイドビッグスピンバックサイドリップスライド」にトライするも失敗。

ヴィアンナが0.1pt差でミルーを勝ち越して自身初のSLS優勝をSUPER CROWNで達成するという快挙を達成した。ヴィアンナは東京五輪にブラジル代表として出場しており、経験値はあるもののなかなか大舞台で結果を残せていなかった。そんな彼の大舞台での初タイトルが今回の「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」となり劇的な幕切れとなった。ヴィアンナの優勝が決まった瞬間にミルーが駆け寄りハグをして称え、ラストトリックを終えた後は周りの仲間や集まり最終的には胴上げをして彼の快挙を称えた。

大会結果

優勝 ジオバンニ・ヴィアンナ (ブラジル) / 36.4pt
2位 ヴィンセント・ミルー (フランス) / 36.3pt 
3位 グスタボ・リベイロ  (ポルトガル) / 27.1pt
4位 フェリペ・グスタボ (ブラジル) / 25.5pt
5位 ライアン・ディセンゾ (カナダ) / 25.0pt
6位 マウリオ・マッコイ (アメリカ合衆国) / 7.0pt

最後に

今大会で通して一番感じたのは、着実に積み上げたキャリアが身を結び、結果を残す選手が増えてきたということだ。前回のシドニー大会で自身初のSLS大会優勝を果たしたフェリペ・グスタボが特にこういう風に感じる主な例なのだが、今回優勝したジオバンニ・ヴィアンナもまだ22歳ではあるものの今までプロになってからなかなか大舞台での頂点を勝ち取れてこなかった選手の一人だ。

最近は日本の小野寺吟雲を筆頭に10代の実力者が増えてきているスケートボード・ストリート種目だが、最近のトレンドとは逆にベテランとしてシーンを牽引しているメンバーも世界大会で結果を残していることにこの業界に吹いている新たな風を感じた。

また同時にこのようなベテランライダーたちの大会での活躍は全競技者に対しても勇気や希望を感じさせるものになると思う。近年若年化し続けるこの競技だが一方で努力次第では選手としても最前線で活躍し続けて長いキャリアを作れるものということ示した大会ではないだろうか。実際に今回決勝に残っていたライアン・ディセンゾは37歳のベテランライダーだ。

特に昨今は若手や育成世代に注目が集まりやすいこの業界だが、個人的には来年のパリ五輪に向けて繰り広げられる出場枠争いにおいてもベテランたちの活躍にも注目していきたいと思う。来週から東京・有明で開催されるパリ五輪予選に該当する世界大会「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」でも世界各国から幅広い年齢のライダーが出場することだろう。

今回の「SLS SUPER CROWN WORLD CHAMPIONSHIP」で活躍した選手たちはもちろんのこと、若手だけではなくベテランライダーも含めて、来年のフェーズ2を見据えてどんなパフォーマンスを見せてくれるのかを注目して「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」も観戦したい。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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