ラストトリックのメイクが勝敗を分けた。最後の最後までわからない熾烈な戦い「SLSチャンピオンシップツアー東京大会: SLS Tokyo – 女子決勝」 | CURRENT

ラストトリックのメイクが勝敗を分けた。最後の最後までわからない熾烈な戦い「SLSチャンピオンシップツアー東京大会: SLS Tokyo – 女子決勝」

| 2023.08.14
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©︎SLS

この度、日本初上陸となった「ストリートリーグ・スケートボーディング(SLS) チャンピオンシップツアー」の東京大会(SLS Tokyo)が2023年8月12日に東京・有明で開催された。12年の歴史を持ち世界最高峰のプロストリートスケートボード大会として世界各国で認知されているこの大会は、招待されることがもはやオリンピックに出ることよりも栄誉なこととされるくらい、スケートボード・ストリート種目に取り組む子どもたちにとっては夢の舞台である。

そんな大会が東京有明の有明アリーナで開催され、女子決勝は最後の最後まで優勝者が分からない接戦の中、オーストラリアのクロエ・コベルが自身初のSLSの優勝トロフィーを手にした。

本大会には毎回世界中から選ばれた数名だけが参加資格をもらえるため、もちろんその狭き門をぐぐり抜けられるほどの成績やスキルがないといけないのだが、今回は全9名の出場選手のうち、日本人選手勢からは、西矢椛、上村葵(赤間凛音のリザーバーとして)、織田夢海、中山楓奈、西村碧莉の5名が出場した。

東京大会のコース©︎SLS

なお予選の位置づけとされるノックアウトラウンドを突破し決勝に駒を進めたのは、織田、中山に加えてオーストラリアのクロエ・コベルの3名。そこに前回のシカゴ大会で入賞者としてシード権を与えられていた西矢、ブラジルのライッサ・レアウ、オランダのロース・ズウェツロートの3名を合わせた計6名で優勝の座を争った。

またSLSチャンピオンツアーも、オリンピックルールと同様にベストラン採用フォーマットが適用。入賞するためには決勝ランの2本のうち1本は確実に点数を取ることが必要とされた。ただSLSでは「ランからラインセッション」「ベストトリックからシングルトリック」と表現を変えている。

そんな世界のトップで大活躍する選手たちが集まった今回の決勝戦。各選手たちに注目しながら今回の女子決勝を振り返っていく。

【ラインセッション】

コベルのライディング©︎SLS

ラインセッション1本目では緊張感が漂いミスが続く選手が多い中でしっかりまとめてきたのは先月のX Games California 2023の金メダリストであるクロエ・コベル。会場内で一番長いロングレールでの「フロントサイド50-50 to フロントサイドボードスライド」や、「キックフリップ」そして一際を目を引く大型セクションであるニコンサインレッジで「フロントサイド50-50 to 180アウト」といったハイレベルなトリックを組み込んだランで7.2ptをマークし大会の雰囲気を自分色に持ち込んだ。

また1本目でコベルに続くランを見せたのは、現在SLSにて5大会連続優勝を果たし6度目の優勝を狙うライッサ・レアウ。中央のビックハンドレールでの「バックサイドリップスライド」でランを始めた彼女は、ロングレールで「フロントサイドフィーブルグラインド」や、「バックサイドノーズグラインド180アウト」をメイクしラストトリックは時間内に決めきれずも6.8ptとした。

ラインセッション2本目では、コベルやレアウが得点を伸ばせずにいる一方で1本目のミスをカバーして得点を伸ばしたのは東京オリンピック金メダリストの西矢椛。彼女のスタイルでもあるリラックスしたライディングの中に、「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーヒールフリップ」や、ニコンサインレッジでの「バックサイド50-50」など高難度トリックを組み込み決勝でラインセッション最高得点となる7.8ptを叩き出し優勝争いに食い込むのだった。

【シングルトリック】

ズウェツロートのライディング©︎SLS

そんな中で迎えたシングルトリックは 最後の最後まで結果が分からない展開に。やはりラインセクションが1本確実に採用されるフォーマットであることから、ランで高得点を取れていない選手ほど、ここでのトリック一発が勝敗を左右するため攻めることを余儀なくされた。

優勝するためには高難度トリックをなんとしてでもメイクしないといけない状況に、失敗するリスクも大きい中でメンタル面の強さも試される戦いが繰り広げられた。以下は各トライで印象的だった選手たちのライディングだ。

1本目

このハイレベルなシングルトリックの戦いの火蓋を切ったのは中山楓奈。6月末に鎖骨を骨折してしまったことから療養を余儀なくされていた彼女。練習期間も少なかった中でまだ満足に滑ることができないものの強さを見せて決勝まで進出した。この1本目でメイクしたハンドレールでの「バックサイド・クルックドグラインド」は7.2ptをマーク。

着地で崩れそうなところをリカバリーしてメイクできたことに腕を広げて「セーフ」の仕草を見せ、それを見ていた西矢や織田も同じジェスチャーで続いた。中山自身も決めたことに少しホッとした様子も見せており、今回は1本目以降メイクすることはできず表彰台は逃したが復調していることがうかがえたため今後が楽しみだ。

2本目

2本目では確実に得点を抑えたいという意味でも、他選手が1本目にメイクしたトリックを基準に置いてトリックをチョイスするような様子も見られた。その意図があったかは定かではないが、1本目でコベルが11段のステアで飛び切ってメイクした「キックフリップ」をチョイスして得点を作った織田夢海。彼女自身も得意技としてキックフリップ持っているが、コベルと同じセクションでメイクし7.0ptをマークした。彼女も中山同様にその後高難度トリックにトライするもミスが続き表彰台を逃したが、世界選手権では3位入賞をしている彼女。今後の大会ではさらにギア上げて調整してくることだろう。

そしてその織田のトリックを皮切りに高得点を叩き出したのがレアウ西矢。レアウはハンドレールでまさにお手本のような綺麗な「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイクし8.6ptをマーク。一方で西矢はハバセクションで「フロントサイドクルックドグラインド to ノーリーヒールフリップ」をメイク。メイクした瞬間は両手を天に突き上げるほど納得いった様子だった。そしてそれに付随するかのように8.9ptという高得点をマークし、アディダスでチームメイトのヴィンセント・ミルーと喜び合う様子も見られた。

西矢のライディング©︎SLS

3本目

2本目とは打って変わって全体的になかなか決めきれない中で、レアウが唯一「バックサイドリップスライド」をメイクし7.2ptをマーク。思ったほど点数を伸ばせないことのに不安な様子も見せていた。実はこの後の2本でレアウはトリックをメイクできず、ナイジャ・ヒューストンの記録に並ぶ6大会連続優勝を達成することはできなかった。

前回のSLSシカゴ大会以降からあまり良い結果を残せていない彼女だが、着実に得点が残せるトリックをチョイスしていないことから何か彼女の中で新たな挑戦とその進化途中なのかもしれない。我々編集部としてはただ勝てないということでは表しきれない不気味さを感じると共にさらに強くなったレアウを近々見れるのではと感じている。

4本目

この回で特に印象的だったのは前回のシカゴ大会3位で今回の出場を決めたロース・ズウェツロート(オランダ)のトリック。彼女はニコンサインレッジで「フロントサイドノーズグラインド」をメイク。トップからボトムまで2m近くの落差があるこのレッジで着地の際に衝撃でデッキが折れるハプニングもあった。次の5本目ではトリックをメイクすることはできなかったが、ラインセクションでは6.0pt、シングルトリック1本目では6.2pt、2本目では7.5pt、そしてこの回4本目では6.7ptと高得点ではないもののしっかりスコアをまとめて見事シカゴ大会に続き3位に入賞を果たした。

そしてここからは西矢とコベルの一騎討ちに。この回でコベルは「フロントサイド5050 to キックフリップ」をニコンサインレッジでメイクし8.8ptをマーク。西矢はプレッシャーからか4本目をミス。優勝の行方はラスト1本に委ねられた。

最後の最後に勝敗を左右したシングルトリック1本

コベルのライディング©︎SLS

そして今回の優勝に繋がる決定打となったのは5本目のコベルのラストトリック。最後の1本だけは現在の暫定順位を元に滑走順が決まるため、先に西矢そしてコベルの順になった。

そんな展開の中、まずは西矢が会心の一本をメイクする。彼女は ニコンサインレッジで クリーンな「バックサイドスミスグラインド」を決めて7.8ptをマークして再度トップに躍り出る。西矢が嬉し泣きで優勝を期待する中、今大会一のプレッシャーを受けて最終走者としてラストトリックを迎えたコベル。一度は踏み切る前にやり直すも彼女が最後にトライしたのは11段のビックステアでの「スイッチキックフリップ」。このトリックを見事にメイクし、ボードを投げてしまうほど喜びをあらわにして優勝を確信した。そして見事9.0ptの9クラブで締めくくり再度トップにジャンプアップしてSLSチャンピオンシップツアー初優勝を果たした。

コベルの勝利を決めたスイッチキックフリップ

大会後のインタビューで本人は「ただ自分のベストを出したかっただけです。大きいステアでのスイッチキックフリップだから練習でも躊躇しましたが、実際にメイクできたこの気持ちは言葉にならないです。とにかく自分のことを誇りに思いますし、応援してくれた人たちに感謝を伝えたいです。」と話したことから、最後の最後に決め切れるその精神力と実行力が彼女のさらなる成長を見せた大会だった。

まとめ

今回は大会全体を感じたことはいかにシーズン通して付けてきた勢いを活かしていけるかだった。特に今回優勝したコベルに関しては先月のX Games California 2023で快挙を残したことが記憶に新しいが勝つためのメンタルやそれを支えるスキルとメイク率の精度がさらに上がっているように感じた。

これは日本人女子選手も同様であり、今後さらに激化するパリオリンピック代表選考大会の中でいかに勢いを切らさずこの期間を駆け抜けられるかが大事になると感じる。今回のSLS Tokyoのメンバーでいえば、怪我から復調してきた中山、一方で絶好調の中で怪我をしてしまい療養が必要となる赤間、その赤間の代わりにSLS初出場を果たした上村、後一歩のところで悔しい思いをした西矢、そしてやりきれなかった悔しさを持つ織田など、選手たちにそれぞれ異なる状況と挑戦がある中でどのように戦い抜くのか重要になるだろう。

編集部としてはそういう視点からも今後の女子ストリートの動向をチェックしていきたいと思う。

大会結果 (決勝のみ)

©︎SLS

優勝 クロエ・コベル – オーストラリア/ 32.50pt
準優勝 西矢 椛(ニシヤ・モミジ) / 31.20pt
第3位 ロース・ズウェツロート – オランダ/ 26.40pt 
第4位 ライッサ・レアル – ブラジル / 22.60pt 
第5位 織田 夢海(オダ・ユメカ) / 12.10pt 
第6位 中山 楓奈(ナカヤマ・フウナ) / 11.10pt 

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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