まさにLASTまで分からないLAへの道のり。「WST WORLD CUP ROME 2025」ストリート女子決勝
2025年6月8日(日)〜6月15日(日)にかけてイタリアの首都ローマで「WST WORLD CUP ROME 2025」ストリート女子 が開催された。2028年にロサンゼルスで開催されるオリンピックに向けた出場権とシード権をかけた選考レースとなる注目の今大会。最大3名のオリンピック代表枠を争う中、World Skateboarding Ranking (WSR)の上位を占める日本人女子スケーターにとっては、このローマのワールドカップは非常に重要な大会である。
ローマの今大会に参加した日本人スケーターはオリンピック金メダリストの吉沢恋、西矢椛、メダリストの中山楓奈をはじめ、織田夢海、伊藤美優、松本雪聖、尾関萌衣、大西七海の8名。この日本人スケーター8名は全員準決勝に進んだ。
さらに準決勝を勝ち上がった決勝は計8名で競われ、ダニエル・テロル(スペイン)、中山楓奈、織田夢海、西矢椛、ツゥイ・チェンシー(中国)、吉沢恋、松本雪聖、クロエ・コベル(オーストラリア)となった。
決勝では昨年のオリンピックまで採用されていた45秒のラン2本のうち高得点1つとベストトリック5回のうち高得点2つの0〜300点であったが新しいフォーマット形式で開催された今大会は45秒のラン3本の高得点1つとベストトリック3回の高得点1つの0〜200点で順位が決まる仕組みとなった。
各ランと各ベストトリックにて注目したスケーターのライディングとトリックを厳選してピックアップしていく。
【ラン1本目】:鍵を握る最初の複合技を決めた織田夢海!

そして今大会のラン1本目で筆者が最も注目したのは3順目にライディングした織田夢海。彼女の特筆すべき点は、キックフリップを中心とした力強いトリック。そしてキックフリップからのレールやカーブに入るボードコントロールも群を抜いている。ここまで前者の2名になかったフリップトリックを最初に披露したのが彼女。最初のフロントサイドフィーブルグラインドのメイクから流れるようにキックフリップをメイク。さらにレールでのキックフリップフロントサイドボードスライドを披露。最初の複合技には会場も沸いた。ボードの進行方向前面を叩いて回転を加えるノーリーキックフリップもこのライディングで今大会決勝初披露。他にもバックサイドクルックドグラインドやバックサイドボードスライドなどを安定してライディングしていきラストトリックではパーク中央部分のキックフリップバックサイド50-50グラインドにてフルメイクのランを完遂。82.61ptとラン1本目でのトップスコアをマークした。
2本目、3本目のランは1本目の高得点を自信に持ちさらに難易度の高いトリックに挑戦していた。果敢に攻めるキックフリップフロントサイドフィーブルグラインドやバックサイドクルックドグラインドノーリフリップアウトのこの2つは彼女の代名詞のトリックとも言える。今大会でのメイクはなかったものの、今後の大会では必ず披露し高得点が獲得できることも彼女がこれまでの大会で示してきてくれている。果敢に攻める姿には感動し、今後の彼女の代名詞のトリックを見せてくれる姿に注目していきたいスケーターの1人だ。
【ラン2本目】:スピードの付け方で差を見せた松本雪聖のライディング!

2本目のランで筆者が最も注目したスケーターは熊本県出身の松本雪聖。高身長から繰り出すトリックが魅了的であるが筆者が注目した点はトリックとトリックの合間に行うプッシュが他のスケーターよりも力強くストロークが長い点だ。ストロークとは主に水泳用語で使われることが多いのだが一度漕ぐ、スケーターでいう地面を蹴った後に伸びていく距離の長さに魅力を感じた。コンテストではトリックに目がいきがちであるが、ランではスピードや構想も点数に反映されると筆者は考える。他にもアール面から降りる際に彼女は膝をしっかり曲げて体重を乗せるのでスピードが出やすい。そんな中、キックフリップバックサイドリップスライドやバックサイドスミスグラインドのフルメイクを完遂し79.98ptを獲得。
成長著しい彼女は13歳。ベストトリック3回目ではキックフリップフロントサイド50-50グラインドを決めた。ここ数年で飛躍的にコンテストでの経験を積み、このローマの地で堂々たる姿を観客の目に焼き付けた。ロサンゼルスオリンピックに向けた台風の目と言えること間違いない。
【ラン3本目】:軽やかなスタイルで魅せる西矢椛!

3本目のランで筆者が注目したスケーターは西矢椛。ここ数年ストリートでの映像撮影にも注力してきた彼女の滑りの特徴はスタイルだ。トリックの際に手をあまり上げない滑りはどんな難しいトリックも彼女が行うと簡単そうに見えてしまう。そんな彼女の3本目のランはバックサイドリップスライドからスタートしヒールフリップ、フロントサイドスミスグラインドフロントサイド180アウトも簡単そうに見えたが意外と難しいトリックである。バックサイドクルックドグラインドヒールフリップアウトも彼女が持つ十八番トリックも決め、ラストには丸いレールでのフロントサイドテールスライドのフルメイクは80.49pt。
ベストトリックの彼女の順になると少し足を自ら叩いている仕草からベストコンディションではなかったのかもしれない。しかしバックサイドクルックドグラインドヒールフリップアウトをより大きなセクションで挑み続けた。東京オリンピック金メダルを獲得した経験からコンテストの経験値は豊富、さらには先述した彼女にしか出せないスタイルのある滑りは今後も注目していきたい。
【ベストトリック1回目】:ラン3回は体力を削る!?
ここでは8名のスケーター全員がメイクならずであった。注目したスケーターをベストトリック3回目に1人増やして紹介したいと思う。45秒のランが2回から3回となり、ベストトリックを迎えるにあたり体力の消耗が懸念される。この日のローマの気温は30度、ラン終わりには水分補給を座って摂るなど45秒という短い時間であっても、ハードな技は連続で繰り出し続けるスケーターにとっては体力の消耗とも戦わなければならない。
【ベストトリック2回目】:得意技をアップデートさせた吉沢恋の滑り

ベストトリック2回目で注目したスケーターは吉沢恋。ビックスピンフロントサイドボードスライドは彼女の得意技であり昨年のパリオリンピックでも逆転優勝を果たした際のトリックでもあり、記憶に新しい。そんな中、ビックスピンフロントサイドボードスライドショービットアウトという、さらに難易度を高めたトリックを披露し90.26ptの高得点を獲得。
昨年のオリンピックで決めた優勝トリックをアップデートさせ今大会でメイクしたのは流石の一言。まだまだ内に秘めたトリックを持っていることを予感させるようなランでの組み立てにも見えたので今後の彼女の新しい技の披露にも期待したい。
【ベストトリック3回目】:ニュートリックを虎視眈々と狙う中山楓奈と、逆転をラストまで信じたクロエ・コベル

ラストに注目したスケーターは2人。1人は中山楓奈。ベストトリックの2回で挑み続けたバックサイドノーズブラントスライドをラストトライにてメイク。パーク中央に位置するダウンレッジでのこのトリックは彼女の最高のトリックであったことには間違いない。彼女の得意技のフロントサイドクルックドグラインドはスケーターの栄誉でもあるスケートボードマガジンの表紙を飾ったほどだ。そんな得意技は封印し新しい技、背面にてウィールを滑らせていくバックサイドノーズブラントスライドのメイクには驚愕した。91.88ptの今大会決勝での最も高い得点がどんなに難しいトリックかを物語ってくれている。
冷静沈着にトリックに挑む彼女の姿と難易度の高いトリックを持つ彼女。今後の大会では持ち技のどのトリックを繰り出すのかより一層楽しみだ。同じ日本の上村葵もバックサイドノーズブラントスライドを持ち合わせているので、まさに相乗効果でスキルを上げたように感じる。

最後に注目したのはクロエ・コベル。彼女は実は3本全てのランにてフルメイクを完遂。驚異的な集中力を見せていたがベストトリックでは2回ともミスに終わっていた。ここがコンテストの特徴でもあり、どんなにすごいランを見せてもラン、ベストトリックの両方のスコアを揃えていないといけない。しかし彼女はまさに逆転の女王と言わんばかりのフロントサイド50-50グラインドキックフリップアウトを完全に決め91.59ptにてラントリックでの持ち点の4位からベストトリックのスコアの両方を揃え、見事に逆転優勝を果たしたのだ。
先月末に行われた「SLS SANTAMONICA TAKEOVER」に続いてのラストでの逆転優勝、その後はデンマークの首都コペンハーゲンで開催されたスケートの祭典、コペンハーゲンオープン(CPH Open)2025に参加して今大会に挑んだ多忙を極める彼女。ラン3回目ではファーストトリックにノーズグラインドノーリーフリップアウトを見せてのフルメイクのラン。これまでに見せてきていないトリックをまだまだ持っているように感じた。
大会結果
優勝:クロエ・コベル(オーストラリア)181.38pt
2位:中山楓奈(日本)161.00pt
3位:松本雪聖(日本)159.00pt
4位:ツゥイ・チェンシー(中華人民共和国)153.54pt
5位:吉沢恋(日本)151.54pt
6位:織田夢海(日本)82.61pt
7位:西矢椛(日本)80.49pt
8位:ダニエル・テロル(スペイン)71.42pt
決勝へ進出した8名のうち5名が日本人女子スケーター。まさに世界一のハイレベルの戦いであると感じた。準決勝にて惜しくも敗退であった伊藤美優、尾関萌衣、大西七海も今大会の悔しさを次回以降に晴らしてくるに違いない。誰が決勝に残ってもおかしくないほどの拮抗とした戦いは今大会以降も続いていき、3年後に行われるロサンゼルスオリンピックに向けての選考レースを勝ち取るのは果たして誰なのだろうか。目が離せない戦いの一幕を編集部からお届けしていきたい。
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