バートとパークスタイルの二刀流で日本の新たな時代を切り拓く。世界初の新技「雷神(RAIZIN)」とは?今注目の若手スケートボーダー猪又湊哉インタビュー
昨年のパリオリンピックでの日本人選手たちの大活躍がまだ記憶に新しい「スケートボード・パーク種目」と、世界最大のアクションスポーツの祭典「X Games」の花形種目で世界最高難度トリックを有する日本人選手が多いことから今大きな注目が集まっている「スケートボード・バート種目」。この両種目の二刀流で世界最高峰を舞台に様々な快挙を残しており、3年後のロサンゼルスオリンピックでの大活躍も期待されている現在15歳の若手日本人ライダーがいる。
それが「X Games」のバート種目銀メダリストであり、先日のイタリア・ローマで行われたロサンゼルスオリンピック選考レースの第1戦目となった「WST WORLD CUP ROME 2025」のパーク種目で初決勝5位という結果を残した猪又湊哉選手だ。そんな国内外での活躍が著しい彼だが、今年新たな快挙を成し遂げた。それがバートでメイクした世界初の新技「バックサイドバリアル540 to ハンドバリアルステイルフィッシュグラブ」だ。彼はこの新技に「雷神(RAIZIN)」と名付け自身のシグネチャートリックとして今シーズンを戦っていく。
今回は今大注目が集まっている猪又選手にインタビュー。世界初メイクとなった新技習得の裏側をはじめ、彼がスケートボードを始めたきっかけから世界最高峰で結果を残せるその強さの秘訣、そして日本のスケート界の若き風雲児である彼の今後の目標と夢について聞いた。
猪又湊哉(いのまた・そうや) 以下: S
世界初メイクの新技。「雷神(RAIZIN)」と名付けられた世界を驚かすこのトリック習得の背景とは
― 今回メイクした新技「バックサイドバリアル540 to ハンドバリアルステイルフィッシュグラブ」を習得しようとした経緯を聞かせてください。
S:今後もっと自分のライディングのレベルを上げていくために、元々メイクできていた「バリアルフリップ540」を上回る難易度のトリックを習得したかったのと、あと誰もやってない技にも挑戦してみたいという思いから自分の得意な動きを派生したこのトリックを選びました。
― ちなみにこの新技についてはどのようにインスピレーションを得たのでしょうか?
S:この新技は自分で思い付いてチャレンジしました。自分の普段のライディングがベースになっているので、自分の持ち技をやっていく中で今回の新技もメイクできそうだなと思ったので挑戦し始めました。何度も練習してなんとかメイクできるようになっていきました。
― 実際にこの新技を習得するために苦労した部分はありますか?
S:正直、まだいつでもメイクできるほどマスターできているわけではないので、これからもっと練習してメイク率や完成度を上げていかないといけないのですが、バリアルフリップ540した後にステイルフィッシュグラブに持ちかえる部分が結構怖くて、その恐怖心を克服するメンタルを持つためにもこのトリックにトライする時はずっと集中して滑っていました。なので習得するまでは特に集中力を切らさないことが苦労した部分で、新技にトライする上で大事なことだなと学びました。
― ちなみにこのトリックを習得するのにどれくらい時間がかかりましたか?
S:実際に練習してメイクするまでにかかったのは合計3日間くらいです。元々この新技を思いついたのは、自分がバリアルフリップ540をした時にボードの回転が速くなってしまうことがきっかけで、結構勝手に回りすぎてしまったので、その時にこの新技ができるんじゃないかってふと思いました。
この感覚を秩父スケートパークのバーチカルで練習していた時に気づいたんですが、その日と同じ週に大会があって大会の練習がメインだったので、新技の練習は秩父にいる2日間くらいの間で少しだけやって、それから大会が終わって結構時間も空いた頃に「あの新技乗りたいな!」と思ったので、もう1日丸々新技の練習だけをしてなんとか初メイクできた感じです。
― 最初に練習した2日間からトリックをメイクしたその1日までしばらく時間が空いたとのことですが、その間に自分のライディングの分析もしましたか?
S:かなり分析しましたね。最初の2日間の時は少ししか練習してなかったのもありますが、結構体も回りすぎてバランスを制御できていなかったので、回転する時に肩を回しすぎないようにしたりと練習の動画を見返しながら分析していました。その中でこうした方が良いなという修正点を反映させて、その後の1日の練習の中で落とし込んで何度もチャレンジしたらメイクすることができました。
― また今回の新技は世界初ということで「雷神(RAIZIN)」と名付けるという話を耳にしました。この名前を選んだ由来はありますか?
S:はい。元々普段から秩父神社のお守りをずっと付けて遠征をしているのですが、その神社で祀られている神様が雷神様で、この新技をメイクできたのもその神社の近くにある秩父スケートパークだったのが理由の一つと、あとこのトリックで「雷が打たれたような衝撃」を与えたいという思いも含めて「雷神(RAIZIN)」という名前に決めました。
世界的なレジェンドライダーのトニー・ホークに憧れた幼少時代。今は彼と連絡を取り合う仲へ。スケートボードを始めたきっかけとは

― スケートボードを始めた経緯を聞かせてください。
S:小学生の頃に、鵠沼スケートパークで開催された「SHONAN OPEN」というイベントで開かれていたスケートボードの無料体験会がきっかけで始めました。当時から鵠沼スケートパークに遊びにいくことが多かったので、パークにあった大きなランプを滑っている子たちに魅力を感じて、自分も同じように滑れるようになりたいと思いたくさん練習していく中で、上手くなっていったので自然と大会にも出始めるようになりました。
― 猪又選手が引き込まれていったこのスケートボードの魅力とは何だと思いますか?
S:スケートボードの魅力は、年齢や性別関係なくみんなで滑ったり、新しいトリックができた時にお互いが喜びを分かち合えて楽しめることだと思っていて、パークスタイルもバートもちろんストリートもそうですけどスケートボード1本で同じ喜びをみんなで共有できるところがスケートボードの魅力だと思います。
― ちなみに猪又選手が影響を受けたスケートボーダーがいたら聞かせてください。
S:影響を受けたライダーはトニー・ホークですね。自分が小学3年生くらいの時に昔のムラサキパーク東京で行われたLAKAIのイベントにトニー・ホークが来ていて、その中で彼の滑りに見て感動したというか魅了されました。今でも彼は僕が好きなスタイルを体現していて、特に尊敬しているライダーの一人です。
― 今回の新技の「雷神(RAIZIN)」という名前を決める上でも、実際にトニー・ホークにも相談されたようですね。
S:はい。世界初の新技に自分で名前を付けているライダーたちもいるので、今回の僕の新技も「自分が世界で初めてメイクした技だからオリジナルの名前を付けてもいいのかな?」ってトニーに相談しました。そうしたら「ソーヤが世界で初めてメイクしたトリックなら付けていいと思うよ」って言ってくれたのでとても嬉しかったですし、この「雷神(RAIZIN)」という名前を付けることにしました。
どんな大会でもプレッシャーに負けないようにトリックの完成度にこだわり続ける。猪又湊哉の強さの秘訣とは

― 普段はどのようなことを意識しながら練習していますか?
S:普段から大会の時のプレッシャーをイメージして練習しています。実際の大会のように指定のフォーマットに沿って決められた時間の中でライディングしてみたり、自分が大会で出したい技に関してはセクションによってメイクできるものが変わってくるので、メイク率や完成度を上げられるように特定のトリックに集中して練習したりもしています。
― 常に大会を意識して練習されているとのことですが、大会前のルーティンや大会に良い状態で挑むためにしていることはありますか?
S:大会前はテンションをあげるために結構ヒップホップ系の音楽を聞くことが多いですね。あとは普段からいつも同じネックレスをつけていて、自分のお守りみたいなものなので大会の時も忘れずにつけるようにしています。
― ちなみにライダーによっては大会前は話しかけて欲しくない人もいるかと思いますが、猪又選手はどういうタイプですか?
S:僕は集中しようとして音楽だけを聴いているとどんどん緊張してきてしまうタイプなので、むしろ他のライダーたちと結構たくさんコミュニケーションを取りながら、みんなでおもしろい話をしたりして緊張をほぐすようにしています(笑)

― そんな猪又選手の得意なライティングやトリックについても教えてもらえますか?
S:バートとパークスタイルのどちらもですが、ステイルフィッシュグラブのひねりのスタイルとかエアーの高さは自分のスタイルで強みだと思っています。トリックという面では自分が回転したりボードを回したりするのも得意としている部分です。
― バートとパークスタイルの二刀流で国内外の大会を転戦されていますがこの二種目でどんな違いがありますか?
S:違いで言うと、バートはどこのパークもアールの形が大体決まっていて同じような形状なのでできるトリックも結構たくさんあるんですが、パークスタイルはパークによってアールの形とかセクションが違うので、本当にパーク次第でトリックセレクションが変わってきますね。
― 最近は世界でも強さを見せている猪又選手ですが、逆に今まで負けた経験から学んだことにはどんなことがありますか?
S:やっぱり負けた悔しさをバネにして練習することですかね。自分が勝つために全力を尽くして挑んだ大会で負けることの悔しさは本当に言葉にできないものがあるので、それを原動力に負けた原因を分析しながらもっと練習に励むようにしています。
― また競技を続けていく上では応援してくれる人たちの存在も大きいと思います。猪又選手にとってサポーターはどういう存在ですか?
S:本当に大切な存在で、家族や仲間の応援とかスポンサーさんのサポートのおかげで自分はスケートボードを続けられているので本当に感謝しています。特に父親はずっと自分のライディングを見てきてくれているので、大会の時はトリックセレクションの変更だったり、その時調子が悪かった所をどう変えたらいいのかをよく相談しています。結構色々な意見を言ってくれるので、色々試してみてどれがその時の自分に一番合ってるかみたいなことを一緒にチューニングできるので大切な存在です。
X GamesやWSTといった世界最高峰の舞台に戦いの場を移した今、肌で感じているネクストステップ

― バートとパークスタイルの両方で世界のトップ選手と戦う中で感じていることはありますか?
S:本当に海外のライダーはみんなエアーが高くて全体的にスキルが高いことはもちろんですが、選手たちがみんな楽しんでいるところがやっぱり印象的です。もちろん日本のみんなも彼らと同じくらい楽しんでいますが、海外のライダーはみんなレベルが高くて余裕があるので、その彼らの雰囲気に自分の気分も上がるというか、このトップライダーたちと一緒に滑れることがすごく楽しいといつも感じています。
― 海外転戦する中で感じた日本と世界で違う部分を聞かせてください。
S:海外はとにかくパークの数が多くて、どのパークも規模が大きい上に無料で開放されているところも結構多かったりするのでライダーにとってすごくありがたいですね。海外遠征中は大会のパーク以外にも近くにある色々なパークを気軽に行ったり来たりできるのも楽しいです。
― そんな海外遠征で経験した猪又選手が個人的に驚いたことも聞かせてください。
S:初めてアメリカ行った時にロサンゼルスのベニスビーチでスケートをしていたのですが、ウィードの匂いが結構きつくてスケートに集中できなかったことと、アルゼンチンでホテルに泊まっていたら夜に外で銃声が聞こえたのが印象的な出来事です。日本では絶対に遭遇しないことなので驚きました。。汗
― 今後世界で戦っていくために今の自分に必要だと感じていることがあれば教えてください。
S:必要なところはやっぱりパワーですかね。もっとパンピングでしっかり漕いで、高く飛ぶっていうところが世界と比べると日本人ライダーは欠けていると思っていて、その力が自分にも必要だと強く感じています。
― パワーが大事ということですが、普段からフィジカルトレーニング等もされているのでしょうか?
S:実際に滑ってパンピングしていたら結構パワーも付くとは思いますし、もちろん脚力がないと話にならない感じはありますが、最近海外の選手では上半身がしっかりしてるライダーの方がもっとパワーがあるなと感じているので、自分も少しだけ上半身のトレーニングを始めました。
まず目指すはロサンゼルスオリンピックでのメダル獲得。今後の目標と将来なりたいスケーター像

― 今シーズンが始まり、先日のWSTワールドカップではパークスタイルでトップ5と幸先良いスタートを切りましたが、今後の目標を聞かせてください。
S:今シーズンの目標は世界選手権ではパークスタイルでトップ8以内に入ることで、 「X Games」では大阪とソルトレイクシティの両方に出場するのでどちらでもバートでメダルを取りたいです。あとはトニーホークが主催しているバートの大会の「Vert Alert」があるのでそこでもメダルを取りたいと思っています。
― 今週末にはその「X Games Osaka 2025」がありますね。メダル獲得以外に注目してほしい部分はありますか?もしかして新技が見られたり?
S:そうですね。今回の新技もやると思いますし、とにかく高く飛ぶところを注目して観てもらいたいです!
― ちなみに次にメイクしたい新技って既にあったりしますか?
S:実はやりたい技はもう数えられないくらいたくさんあるんですけど、目先にある目標というか、今メイクしたい技はまだ思い浮かんでいないので、また決まったらメイクして見せます。それまで楽しみにしていてください。
― また3年後に迎えるロサンゼルスオリンピックに向けても意気込みを聞かせてください。
S:オリンピックはずっと自分がスケートボードを始めた頃からの夢なので、絶対その舞台に立ってメダルを取りたいです。今オリンピックのことしか考えられないくらい力を入れて練習にも取り組んでいるので、まずは選考に関わる大会ではしっかり結果を残して出場権を獲得できるように頑張ります。
― 将来目指しているスケーター像はありますか?
S:ずっとカッコいいスケーターであり続けたいです。トニー・ホークみたいに何歳になってもバチバチに滑っていたいですし、日本のスケーターでも色々なビデオを残していたり、イベントでかましているスケーターも見ていてカッコいいと思うのでそういうスタイルが特徴的なカッコいいスケーターになりたいです。
― 最後に猪又選手にとってスケートボードとは何でしょうか?
S:スケートボードは大切で隣にいなくてはいけない相棒みたいな存在ですね。
猪又湊哉プロフィール

2009年10月16日生まれ。神奈川県茅ヶ崎市出身のスケーター。7歳からスケートボードを始めると、スケートボードの魅力にはまり毎日練習を重ねて国内の大会に出場するようになる。2021年に出場した「NIKE SB NEWTYPE JAMVERTICAL」での優勝をはじめ、同年に「全日本選手権大会」で2位、2022年に「JSFバーチカルコンテスト東京」にて優勝とバートとパークスタイル両方で国内の主要大会にて数々の好成績を残すようになる。
2024年には「X Games Ventura 2024」にバート種目の招待選手として呼ばれるとルーキーイヤーながらベストトリックで銀メダル。その後の「X Games Chiba 2024」ではランで銀メダル・ベストトリックで銅メダルとバート界を驚かす好成績を残す。一方パークスタイルでは同年の「マイナビスケートボード日本選手権」にて優勝を収めると、先日2025年6月に出場したワールドカップの「WST Rome」にて初めて決勝に進出し5位に。
今年はバートにて世界初の新技「雷神(RAIZIN): バックサイドバリアル540 to ハンドバリアルステイルフィッシュグラブ」とメイクし、実力とスタイル共に世界から今最も注目されているライダーの一人である猪又は2028年ロサンゼルスオリンピックで日本人男子選手初のパーク種目メダル獲得を目指す。スポンサーはFeelings、 Powell Peralta、 187 Killer Pads、 Bones Bearings、 Protec。
*本記事はFINEPLAYとの共同掲載記事となります。
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