勝利をたぐり寄せたのはキラートリック「第6回マイナビ日本スケートボード選手権大会」女子ストリート種目 | CURRENT

勝利をたぐり寄せたのはキラートリック「第6回マイナビ日本スケートボード選手権大会」女子ストリート種目

| 2023.11.21
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優勝した織田夢海のライディング ©ワールドスケートジャパン

今年の日本一を決める大会「第6回マイナビ日本スケートボード選手権大会 supported by Murasaki Sports」のストリート種目が東京都立川市のムラサキパーク立川立飛にて2023年11月17日(金)~18日(土)に渡り開催された。

今大会は先日開催されたパーク種目と同様、来年度のワールドスケートジャパン強化指定選手及び特定育成選手の選考を行う重要な大会。また来月12月に東京で初開催されるパリオリンピック予選大会「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」の前哨戦としても日本中から国内トップ選手たちが集まった今回は東京オリンピック金メダリストである西矢椛銅メダリスト中山楓奈は不在となったが、日本人別の世界ランキングトップ選手である赤間凛音、先日中国で行われたアジア大会で3位になった伊藤美優や、今年9月にスイスのローザンヌで開催されたパリオリンピック予選大会の「World Skateboarding Tour: Lausanne」で西矢に続き準優勝となった織田夢海が出場し、今年の日本一を決める大会としてふさわしい顔ぶれとなった。

決勝は全31名の出場者の中、予選・準決勝を勝ち上がった合計8名で競われる形。今大会のスタートリストは杉本二湖大西七海藤澤虹々可中島野々花伊藤美優赤間凛音松本雪聖、織田夢海の順だ。

決勝フォーマットは、45秒間のラン2本に加えてベストトリック5本にトライする中から、ベストスコアであるラン1本とベストトリック2本の計3本が合計得点として採用される形となった。なお今大会のコースは今年オープンばかりの関東最大級のスケートパークであるムラサキパーク立川立飛。クオーターやステア、レッジそしてレールなど多種多様なセクションを有するこのコースを使って、いかに高難度かつオリジナリティのあるトリックをメイクし、ランとベストトリック共にハイスコアをまとめきれるかがこの戦いの焦点となった。

大会レポート

【ラン1本目】

決勝での自分の調子を確認する時間として重要である一方で、その後の試合展開を左右するランとなりうるラン1本目。今大会では大半の選手がランの途中でトリックをミスする展開。その中でも早々に60点台を叩き出し次のランとその後のベストトリックに向けて着実に得点を残したのは松本織田の2名だ。

松本雪聖のライディング ©ワールドスケートジャパン

他選手が満足のいかないランを見せる一方で、その雰囲気を吹っ切る力強いランを見せたのは決勝進出者の中で最年少11歳の松本雪聖。最初からスピード感のあるライディングを見せると、中央のロングレールでの「キックフリップフロントボードスライド」、その後もダウンレール「キャバレリアルフロントボードスライド to レギュラー」をメイクし会場を湧かしていく。最後は同じく中央のロングレール「バックサイドフィーブル to 180アウト」を決め切りフルメイクし61.12ptをマークした。

織田夢海のライディング ©ワールドスケートジャパン

そんな松本のランの後に滑走し、彼女の得点を超えて見せたのは準決勝1位通過の織田夢海。織田は全体的な落ち着いたライディングの中に高難度のトリックを詰め込むライディングを披露。8段のステアのハンドレールでは「バックサイドスミスグラインド」や「フロントサイドフィーブルグラインド」を、中央のロングレールでは「フロントサイドブラントスライド」をメイクした。それ以外にもバンクでの「キックフリップ」など随所にトリックを入れたランで61.46ptをマーク。高得点ながらもその表情には余裕があり、その姿は世界最高峰の舞台で結果を残してきた彼女の強さを感じさせた。

【ラン2本目】

決勝ではベストランが採用されるため1本目でミスをした選手にとっては、表彰台獲得を考えた時にここで高得点を残しておかないといけないプレッシャーも掛かるラン2本目。選手の多くがミスをして1本目より得点を上げられない中、1本目のミスをカバーし得点を伸ばしたのが、杉本、藤澤、赤間の3名だ。

1本目では中央のダウンレールにかけるギャップオーバーの「バックサイドリップスライド」でミスをした杉本二湖。2本目では見事修正し「バックサイドリップスライド」を綺麗にメイク。その後も「フロントサイドブランドスライド」や「バックサイドヒールフリップ」などをメイクして59.87ptをマークしベストスコアを引き上げた。

また同じく1本目のミスを修正したランを見せたのは今年の「日本OPEN」の勝者である藤澤虹々可。藤澤は全体的にグラインド系を綺麗に決めるライディングで「フロントサイドスミスグラインド」や「フロントサイドフィーブルグラインド」をメイク。そして1本目では少しスピードを抑え過ぎたことでミスした「ポップショービットフロントサイド50-50」を中央のロングレールで見事メイクしスコアを55.19ptとした。

赤間凛音のライディング ©ワールドスケートジャパン

そしてこの2本目で決勝ランの最高得点を叩き出したのが赤間凛音。今年の8月に開催された「SLS TOKYO」の公式練習時に転倒して怪我を負ったことから、しばらく療養していた彼女が競技へ復帰し今大会に出場。赤間の代名詞でもある「バーレーグラインド」を1本目でミスし、得点を伸ばせないでいた中で挑んだ2本目では「フロントサイドフィーブルグラインド」や「フロントサイドビックスピン」などを序盤に決め、中盤では1本目のミスを見事修正し「バーレーグラインド to レギュラー」をメイク。最後は「フロントサイド180スイッチノーズグラインド」を決め、ランをノーミスで終えて63.00ptをマークした。

【ベストトリック1本目】

ラン2本を終えた時点で上位選手のベストスコアにはさほど開きが無く、一つのベストトリックの得点で順位が入れ替わるような接戦の中で迎えた1本目。なお後ほど言及するが、今大会の上位入賞者勢は1本目でベストスコアとして扱われる高得点を上げていることが共通点であり、先に良い得点を残すことが勝つための戦略だったと感じた部分だ。

まずは本決勝の第一走者である杉本二湖が完璧な「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」をメイクし70.10ptをマーク。ライディング後は男子決勝に進出が決まっている池田大暉からアドバイスをもらう姿も見られた。その後杉本の得点に迫るスコアを残したのは赤間、松本、織田の3名。赤間が得意技「バーレーグラインド」で69.35pt、松本が「キックフリップ・フロントサイドボードスライド」で68.00pt、そして織田が「バックサイドオーバークルックドグラインド」で67.80ptというスコアをマークし上手く次のトリックに繋いだ。

【ベストトリック2本目】

1本目を終えて、各選手がそれぞれ異なる状況の中でさらなる高得点を叩き出したい2本目では1本目のスコアを全体的にグッと引き上げる高難度トリックが各選手から飛び出す。そんな中でまず70点台に乗せてきたのは赤間。彼女が得意とする腰を捻ったバリエーションのトリックから「バックサイドハリケーングラインド」をハンドレールでメイクして70.56ptをマーク。

そんな赤間を見逃さず追いかけるのは松本。何度もイメージトレーニングをしてから集中した面持ちでドロップインし、赤間と同じステアのハンドレール横にあるダウンレッジで「バックサイド180・スイッチノーズグラインド」を見事メイクし71.80ptとした。

織田夢海のライディング ©ワールドスケートジャパン

しかし、ここで全体の空気をガラッと自分のものに変えたのが織田。彼女のキラートリックである「キックフリップフロントサイドフィーブルグラインド」をハンドレールにて一発で決めた。会場中はそのトリックの凄さに歓声を上げるよりも、どよめくような驚きを見せていた。そしてその超高難度トリックに付いた得点は90.18pt。得点を聞いた瞬間に軽くガッツポーズを見せた織田は確実に試合展開をコントロールしているように見え、実際に他選手たちもその点数に表情を曇らせていた。

【ベストトリック3本目】

織田の衝撃的なキラートリックのメイクを経て迎えた3本目では、各選手が攻めることを余儀なくされたことでプレッシャーからか、ほぼ全員がトリックをミスする展開に。そこで唯一メイクしたのは赤間。ギャップオーバーの「フロントサイドフィーブルグラインド」を丁寧に決めて64.52pt をマーク。自身が暫定2位で暫定1位の織田を追う展開の中、動揺せずにしっかり決めてくる点はやはり世界大会を何度も経験しているからこそ得られた落ち着きに思えた。

【ベストトリック4本目】

徐々に後が無くなる中で表彰台を獲得するには、ここでベストスコアを残しておかないと厳しい展開になる4本目。ここで自身のベストスコアをしっかり塗り替えてきたのは大西、中島、赤間の3名だ。

大西七海はベストトリック2本目にメイクしたハンドレールでの「フロントサイドブラントスライド」で63.61ptをベストスコアとしていたがここで「バックサイドテールスライド」という織田やライッサなど世界のトップライダーが得意とするトリックをチョイスし70.52ptをマークした。

そんな大西に続いたのは中島野々花。中島も大西同様にベストトリック2本目にメイクした「ギャップオーバーフロントサイドノーズブラント」での69.99ptをベストスコアとしていたが、ここで難易度を上げて「ギャップオーバーフロントサイドテールブラントスライド」を見事メイクし71.99ptとしてベストスコアを更新した。

赤間凛音のライディング ©ワールドスケートジャパン

そしてここで引き続き1位の座を狙うべく高難度トリックをメイクし織田を追うのが赤間。2本目の「バックサイドハリケーングラインド」でマークした70.56ptをベストスコアをしていた彼女は「バックサイドビックスピンヒールフリップ」をバンクトゥバンクでメイクし、高難度ながらもオリジナリティ溢れるトリックをチョイスしたことから80.30ptをマーク。思った以上の高得点から近くにいた伊藤と顔見合わせて驚く様子も見られた。

【ベストトリック5本目】

織田夢海のライディング ©ワールドスケートジャパン

4本目を終えた時点でのトップ3はベストトリック2本目から変わらず、織田、赤間、松本の順。最後の一本を迎えてこの3名の順番がどう入れ替わるか、もしくは他選手が彼らを引きずり下ろすのかが注目された。そんな中で、最後にスコアを伸ばしてきたのは杉本二湖。3本目で決められなかった8段ステアでの「ヒールフリップ」を見事メイクし57.32ptをマークし4位で大会を終えた。

そして同じく最後の1本で超高得点を残したのは藤澤虹々可。ステアのダウンレッジでの「ポップショービット・フロントサイドフィーブルグラインド」という超高難度トリックをメイクし90.07ptという超高得点をマークした。藤澤はベストトリックの1本目から4本目で全て失敗していたことから、惜しくも順位を上げることは叶わなかったが、他に1本でもメイクしてスコアを残していれば表彰台圏内に入っていたことだろう。トリックメイク後には織田が駆け寄り「なんでもっと早くやらなかったの?」と藤澤を問い詰める姿も見られ、二人の仲の良さもうかがえた。

一方で今回悔しい思いをすることとなったのは昨年の日本選手権の勝者である伊藤美優。決勝では全体的にあまり自分の思うようなライディングができなかった彼女は、ベストトリックで藤澤同様に1本目から4本目でミスがあったことから得点を伸ばせずにいた。他選手が高得点を上げた際には口を抑えて不安そうな様子を見せることもあり、プレッシャーを感じていたのだろう。最後の1本となった5本目ではずっとトライしていたダウンレッジでの「フロントサイドブランドスライド」をメイクして73.24ptをマークしたが最終的には8位で大会を終えた。

赤間凛音のライディング ©ワールドスケートジャパン

なお、そのまま暫定4位以下の選手によるトップ3への追い上げもないまま、トップ3の織田、赤間、松本の最終トリックへ。最初にトライした暫定2位の赤間凛音は「フロントサイド180・フロントサイド50-50グラインド to 180アウト」をミス。 本人曰く怪我はほぼ完璧で、後は実戦感覚を取り戻すだけとのことなので、今大会では色々なトリックを試合の場でどれだけ出せるかを確認した大会だったのだろう。来月の「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」での活躍に期待したい。

松本雪聖のライディング ©ワールドスケートジャパン

そして次は暫定3位の松本雪聖のラストトライ。今大会でメイクできていなかった「フロントサイド50-50 to バックサイド360アウト」で逆転を目指すも失敗し、点数伸ばせずに3位で大会を終えることとなった。なお本人はトップに追いつくために「バックサイド180ノーズピック」を決勝まで戦略として温存していたものの、80~90点台を叩き出す先輩スケーターの強さを感じて、その技は今回出せなかったとのことだ。ただ今後は世界で活躍する彼らに追いつくためにもっとスキルフルなトリックを用意してくることは間違いない。

織田夢海のライディング ©ワールドスケートジャパン

最後は1位の座を守り切り、ラストトリックをウィニングランとした織田夢海。個人的には今大会は完全に織田の戦略勝ちであったと考えているが、ちゃんと選手たちの様子を分析しながらその時に適切なトリックを一発で決めるメンタルやスキルなど総合力の高さはさすが世界トップ選手と言わざる得ないものだった。今回のベストトリックでは、以前の「Red Bull Drop In Japan Tour」でメイクしていた「バックサイドクルックドグラインド to ノーリーフリップアウト」を決めきれなかったが、見事他選手を抑え込み大会初優勝を達成した。

【大会結果】

©ワールドスケートジャパン

優勝 織田 夢海(オダ・ユメカ) / 219.44pt
準優勝 赤間 凛音(アカマ・リズ) / 213.86pt
第3位 松本 雪聖(マツモト・イブキ) / 200.92pt 
第4位 杉本 二湖(スギモト・ニコ) / 187.29pt 
第5位 大西 七海(オオニシ・ナナミ) / 182.11pt 
第6位 中島 野々花(ナカジマ・ノノカ) / 179.24pt 
第7位 藤澤 虹々可(フジサワ・ナナカ) / 145.26pt 
第8位 伊藤 美優(イトウ・ミユウ) /127.66pt

最後に

©ワールドスケートジャパン

今大会で一番目を引いたのは、織田夢海の冷静な判断力と戦略遂行能力だろう。もちろんスケートスキルやトリックの難易度を高めて、勝負できるトリックを用意することは選手たちにとって当然である一方で、今回の織田のパフォーマンスを通じて競技として勝ち切る部分でも一歩踏み込んだ実力を見せてもらった。

各選手のスキルレベルが日々向上しており、今まで以上に拮抗した戦いになる中で、その次のフェーズで必要になってくる要素を織田は常に手にしているのかもしれない。適切なタイミングを見極めてキラートリックを繰り出し、一発でしっかり決めてくるところに彼女の強さがあると思う。

なお、キラートリックとなった2本目の「キックフリップフロントサイドフィーブルグラインド」をメイクした経緯について「他のライダーも調子が良かったので、自分もここで勝負するしかないという強い気持ちで挑んだ。レールの滑り具合を冷静に判断して調整できたのが良かった。」と織田は語っていた。

その判断を裏付けたのは大舞台での豊富な経験値想像を絶する努力量によるうものだろう。前回のパーク種目の日本選手権では草木ひなのを例に述べさせていただいたが、やはり世界大会を多く経験し結果を残している選手にはスキルの高さはもちろんのこと、試合中の立ち振る舞いの中に落ち着きや自信が見られる。それはストリート種目でも同様であり、世界で結果を残している織田と赤間から垣間見られる点であった。

そういう意味では来月東京・有明で開催される「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」では世界最高峰の戦いがここ日本で行われるため、国内の世界大会常連組に加えて、国内を主戦場とする日本人選手が参戦し、世界の名だたるトップ選手たちを相手にどんなパフォーマンスを見せるのかが非常に楽しみである。

今年の最後に世界一を決める大会がここ日本にやってくる。今回多くの日本人選手たちが世界の大舞台を経験することで、今後の国内の競技レベルのさらなる成長も期待しながら「ワールドスケートボードストリート世界選手権2023」を迎えたいと思う。

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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