近年稀に見る「9 CLUB」合戦の末、堀米雄斗が日本初開催の東京大会を制す「SLSチャンピオンシップツアー東京大会: SLS Tokyo – 男子決勝」 | CURRENT

近年稀に見る「9 CLUB」合戦の末、堀米雄斗が日本初開催の東京大会を制す「SLSチャンピオンシップツアー東京大会: SLS Tokyo – 男子決勝」

| 2023.08.15
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堀米雄斗のライディング©︎SLS

この度、日本初上陸となった「ストリートリーグ・スケートボーディング(SLS) チャンピオンシップツアー」の東京大会(SLS Tokyo)が2023年8月12日に東京・有明で開催された。世界最高峰のプロストリートスケートボード大会として世界的に認知されている本大会は現在のストリートスケートボードシーンの選手たちのプロキャリア確立に大きく貢献している。

そんな歴史ある大会が今回が東京都江東区の有明アリーナで開催され、男子決勝は9クラブ連発の最高難度トリック合戦の中、東京都江東区を地元とする堀米雄斗が日本初開催となったこの大会で大勢のファンを目の前に優勝という最高の結果を残した。

今大会には世界中から招待された超有名スケーターたちが大集合。なお今回は全20名の出場選手のうち、日本人選手勢から堀米雄斗、池田大暉 (グスタボ・リベイロ(ポルトガル)のリザーバーとして)、山下京之助 (アレックス・ミドラー(アメリカ合衆国)のリザーバーとして)の3名が出場した。なお元々出場を決めていた白井空良は前日の練習で膝を痛め棄権となった。

東京大会のコース©︎SLS

なお予選として位置づけとされるノックアウトラウンドでは、20名の選手が4グループに分かれて戦い、各グループ1位の選手が決勝に進出。また各グループ2位のうち最高得点をマークした選手も決勝に進む形となった。そんな狭き門をくぐり抜けて決勝に駒を進めたのは堀米、池田に加えて、アメリカのナイジャ・ヒューストンジェイミー・フォイ、そしてオーストラリアのトミー・フィンの5名。そこに前回のシカゴ大会の優勝者としてシード権を与えられていたブラジルのケルビン・ホフラーを合わせた計6名で優勝の座をが争われた。

競技フォーマットはオリンピックルールと同様にベストラン採用方式が適用された。優勝するためにはベストトリックでの3本に加えて、2本のランのうち1本は確実に点数を取ることが必要となった。またSLSでは「ランからラインセッション」「ベストトリックからシングルトリック」と表現を変えて行われている。

そんなSLSでしか見ることができない世界最高峰で大活躍する若手からベテランまで豪華メンバーが一堂に会した今大会。各選手たちに注目しながら男子決勝を振り返っていく。

【ラインセッション】

堀米雄斗のライディング©︎SLS

ラインセッションでは全体的にワンミスなどの細かなミスが目立つ選手が多い中で安定した滑りでしっかりまとめてきたのは東京オリンピック金メダリストである堀米雄斗。ノックアウトラウンドの時点で自分のランに対して、どのトリックを決めれば9クラブが出るのかジャッジのスコアリングレンジを掴んでいた彼は、基本的にノックアウトラウンドと同じトリックをこのランでチョイス。

1本目はそのランの中に「ノーリーフロントサイド270ボードスライド」など新しい技を取り入れてフルメイク。9.3pと見事思惑通りに9クラブを叩き出し、彼の後にライディングするヒューストンとホフラーにプレッシャーを与えた。そして2本目では更にアップデートしたランにトライするも中盤のミスでトリックが抜けたりと思うように得点を伸ばせずにいたが8.9ptという高得点をマークした。

またラインセッションで堀米に続く高得点を残したのは、今回唯一のシード権を持って決勝に進出した前回のシカゴ大会の優勝者であるケルビン・ホフラー(ブラジル)。彼は直前にライディングしたヒューストンの8.2ptのランを少し意識した滑りを見せる。ヒューストンもメイクしていた「フロントサイドブラントスライド」をはじめ、ダウンレールでの「バックサイドテールスライド」、そして「キャバレリアル・バックサイドリップスライド」をメイクするもラストトリックは時間外で8.6ptというスコアになった。

ホフラーはその後残念ながらシングルトリックを一度も成功させることはできず、シカゴ大会に続く優勝は叶わなかったが、長年結果を残している実力者である彼は次のシドニー大会ではリベンジしてくれることだろう。

【シングルトリック】

池田大暉のライディング©︎SLS

ラインセッションを終えて、各選手が堀米を追う展開の中で迎えたシングルトリックでは9クラブ合戦による優勝争いが繰り広げられた。やはり9クラブを叩き出せるだけのトリックというだけあってその難易度は異次元。それをここ一番で決め切るメンタルの強さも感じられた。以下は各トライで観客を魅了した選手たちのトリックの数々だ。

1本目

この9クラブ合戦へ最初に踏み込んだのはこのSLSにて6大会連続優勝の記録を持つナイジャ・ヒューストン(アメリカ)。昨年8月に膝前十字靭帯を損傷し選手人生までも脅かされた彼は、今年怪我から復帰し6月に開催されたローマの世界大会では優勝を果たすなど復調し強さを見せている。ラインセッションでは9点台を残せていない彼は、この1本目でハンドレールにてお手本のような「ノーリーヒールフリップ・フロントサイドリップスライド」をメイクし9.2ptをマークした。

ナイジャ・ヒューストンのライディング©︎SLS

しかしそんなヒューストンに引けを取らず、彼を上回るトリックを見せたのが堀米。同じくハンドレールで「ノーリー270・スイッチバックサイドテールスライド」をメイク。余裕を持ったランディングで9.3ptをマークし本格的に9クラブ合戦が始まった。

2本目

2本目ではヒューストンと堀米での9クラブ合戦が更に激化。そんな彼らの戦いの前で技ありのトリックを見せていたのがジェイミー・フォイ(アメリカ)。ヒューストンや堀米ほど派手なビックトリックを持つ訳ではないがスキルフルなトリックが特徴の彼。2本目ではコース中央のニコンサインレッジで「フェイキーフロントサイドスイッチクルックドグラインド」をメイクし8.6ptをマークした。

そんな流れから高得点を叩き出したのはヒューストン。1本目と同様にハンドレールで「スイッチヒールフリップ・フロントサイドテールスライド」をメイクし9.4ptをマークしスコアを重ねて堀米にプレッシャーを与える。

堀米雄斗のライディング©︎SLS

しかしそこで冷静に淡々とトリックを決めてくるのが今回の堀米。ゆっくりとした流れでハンドレールに進入し繰り出したのは「ノーリーハーフキャブフロントサイドフィーブルグラインド」。軽々と決めて見せたこのトリックは9.1ptの評価。トリック後には観客に手を振るほどで余裕を感じさせる様子だった。

大会初披露トリックのメイクで優勝を確かなものにした堀米

しかし3本目でこの両者の9クラブ合戦に変化が現れる。なんとヒューストンがここでトリックをミスし堀米に優位な状況を与える展開。ここまでほぼ9点台でまとめてきている堀米は、このチャンスを活かし今大会最高得点のトリックを見せる。

今回はハンドレールではなくハバセクションにポイントを変えて「ユウトルネード(ノーリー270ノーズスライドto270アウト)」という彼のシグネチャートリックを大会初披露。見事にメイクしたこのトリックは9.5ptの評価を受けた。この超高難度トリックの一発メイクにはずっと冷静だった堀米も、思わず感情を露わにして喜ぶ一面も見られた。そしてこの得点から自身の合計得点を37.20ptとしてほぼ事実上優勝を確かなものにした。

粛々と得点を重ねていた池田が見逃さなかったヒューストンのミス。

4本目・ 5本目

この2本で唯一トリックを成功させたのは、出場予定だったグスタボ・リベイロ(ポルトガル)の棄権により、リザーブ選手として今回の出場を決めた池田大暉。ラインセッションでは7.8pt、シングルトリック1本目では「フェイキーキャバレリアルフリップ」で8.2pt、そして3本目で「キャバレリアルバックサイドテールスライド」を決めて8.7ptと、着実にスコアを重ねていた彼が4本目で自身最高得点のトリックをメイクする。

池田大暉のライディング©︎SLS

その渾身の1本は、ハンドレールでメイクした「バックサイド270to270アウト」。完成度の高いこのトリックには9クラブの9.3ptが付けられた。そして何かの運命か、このトリックは彼より先に世界で戦っている現役プロスケーターの兄・池田大亮の得意技なのだ。兄・大亮も過去にSLSへの出場経験があるのだが未だに入賞したことはない。そんな準優勝を決定づけた技が兄の得意技だったことから兄へのリスペクトが垣間見れた瞬間だった。

なお前述したように5本目ではどの選手もトリックをメイクできなかったため4本目を終えた時点で順位が確定。SLSとしては日本及びアジア初開催となったこの東京大会。見事地元の堀米雄斗がSLSにて7度目の優勝を果たし、2位に池田大暉、そして3位にナイジャ・ヒューストンという順位になった。

日本代表コーチの早川さんに肩車される堀米 ©︎SLS

大会後のインタビューで堀米は「優勝できて素直にすごく嬉しいです。日本でSLSが初めて開催されて、多くのファンや家族に良い滑りを見せることができて嬉しかったです。ナイジャやみんなとハイレベルな戦いができ、自分自身もここ最近では一番よい滑りができました。 」と自身の本格的な復調への感触を確かに感じている様子だった。

最後に

今大会を通して感じたことは、ここ例年のSLSの大会に比べて全体的に非常にトリックメイクの精度が高く、観戦する側としても終始手に汗握る面白い一戦だったことだ。また女子の優勝者であるコベルと同様に、先月のX Games California 2023の勝者である堀米が今回優勝したことから、前大会からの勢いを切らさずにうまくメンタル面をコントロールできていたのもポイントだったと感じた。

またこの時期何度も言及することになってしまうが、今後注目されるのがパリオリンピック予選大会での日本代表選手出場枠争い。堀米は今年の夏からUPRISING Tokyo、X Games California 2023、そして今回のSLS Tokyoと優勝を重ねているが、現在パリオリンピック出場に必要となる世界スケートボードランキングでは大幅にビハインドを背負っている。そんな彼がこの勢いそのままに9月にスイスのローザンヌで開催されるオリンピック予選大会第4戦で結果を残し、日本代表選手出場枠獲得を引き寄せることができるのかにも注目だ。

大会結果 (決勝のみ)

©︎SLS

優勝 堀米 雄斗 (ホリゴメ・ユウト)/ 37.20pt
準優勝 池田 大暉 (イケダ・ダイキ) / 34.00pt
第3位 ナイジャ・ヒューストン – アメリカ合衆国/ 26.80pt 
第4位 ジェイミー・フォイ – アメリカ合衆国 / 23.50pt 
第5位 ケルビン・ホフラー – ブラジル / 8.60pt 
第6位 トミー・フィン – オーストラリア / 6.30pt

東京2020オリンピックを境にますます注目を集めるコンペティションシーン。 それらを横目に変わらず進化し続けるストリートシーン。 CURRENT編集部では両シーンがクロスオーバーし、加速する近代スケートボードを独自の目線で情報をお伝えしていきます。
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