想定外の状況でも抑えきり、永原悠路が国内大会3連覇「第2回マイナビスケートボード日本OPEN」男子パーク
2023年4月12日(水)~16日(日)の計5日間に渡って茨城県笠間市にある「ムラサキパークかさま」で開催された第2回スケートボード日本OPEN。雨天の影響により決勝戦が延期となり1日インターバルをおいた中で開催となった今大会。男子パーク種目は大会スケジュールの最後に決勝が設けられた。
それぞれの種目において実質上の日本一が続々と決まっていく中で最後の種目になった男子パークには、男女ストリート種目の出場選手や、つい先ほど終わったばかりの女子パーク種目の選手などたくさんの選手と観客が集まり、本日最後の種目での優勝者が決定する瞬間を見届けていた。
今大会には男子パーク種目での国内最強の選手たちが勢揃い。年齢も下は10歳から上は24歳という幅広い選手層の中で今回の優勝者を決める形になった。そんなメンバーで争われた決勝の中から各ランで印象に残った選手たちをフィーチャーする。
大会リポート
「ラン1本目」誰もフルメイクが出ない中、高得点を叩き出したのは。
決勝のラン1本目では多くの選手が比較的早々にトリックに失敗。誰もフルメイクする選手がいない中、フルメイクに迫るライディングを魅せて高得点を残したのは笹岡建介。今大会では最年長となる24歳の笹岡は日本を代表し世界でも活躍している選手の一人。10代の若手が台頭し始めている中で経験の差を見せた。
笹岡は持ち前のスピードを活かし、「フロントサイド・スミスグラインド」を長い距離流して勢いに乗ると、「バックサイド・テールスライド」「バックサイド・540」などをメイク。後半での「キックフリップ・インディー」の失敗が悔やまれたがそれでも69.35ptをマークした。
また同時にラン1本目で今回の自身最高得点を出したのが天野太陽。結果的にはブザーが鳴る直前でミスがあったがほとんどフルメイクだったと言っても過言ではない見事なライディングを見せた。本決勝では天野だけが取り入れていたトリック「ダブルグラブ」をはじめ「バックサイド・540」や「ボーンレス」をメイクして65.98ptという高得点を残した。
「ラン2本目」1本目の失敗を見事にカバーする切り替え力
ラン2本目で1本目のミスを改善してフルメイクでまとめたのが栗林錬平と猪又湊哉の2名。
栗林は「ペコ」の愛称で親しまれているダイナミックなトリックが特徴的な選手で1本目のミスを塗り替えるライディングを見せた。ラン開始早々から「バックサイド・540」をメイクしその後は「キックフリップ・インディー」や「ボディー・バリアル」などを見事に決めてフルメイクでランを終えた。その様子を見て会場からも歓声が沸き、仲間や観客からグータッチを求められた栗林が丁寧に全員と拳を合わせる姿が印象的だった。
そしてそんな栗林が作った流れに乗ってフルメイクを決めたのが猪又。大きな声援を受けてライディングをスタートした彼は、前半のトランスファーで飛びすぎてボトム付近に着地。失速してしまったがそこから見事にリカバリー。「バックサイド・540」や、2度の「バリアルフリップ・ボードグラブ」、「アリウープ・キックフリップインディー」をメイクしフルメイクでランを終えた。
また一方でフルメイクにはならなかったものの観る者たちに大きな印象を与えるライディングをしたのが西川有生と櫻井壱世。
西川は今大会最年少の弱冠10歳の選手。小さな身体から繰り出される高難度のトリックの数々にギャップを感じ、驚いた人も少ないだろう。そんな西川が今大会でメイクしたのが東京五輪でオーストラリアのキーラン・ウーリーもメイクした技「バックサイドキックフリップ・ボディーバリアル」だ。このトリックのメイクにはMCも含め会場内から歓声が沸き上がった。今回は入賞には届かなかったものの今後が期待される選手だ。
そしてもう一人見事なライディングをしていたのが準決勝1位通過で決勝に駒を進めた櫻井。今大会では他の選手がメイクしていない「マックツイスト」や、「バックサイド・リップスライド」、「キックフリップ・インディー」の完成度の高さは抜群だった。準決勝1位通過によるプレッシャーもあったのか今回は本人が望むような結果にはならなかったが次回以降の活躍を期待したい。
「ラン3本目」最後まで結果が分からない拮抗した戦い
ラン2本目の時点でもしっかり高得点を残してきた選手と、まだランとしてまとめきれていない優勝候補が混在する結果が最後まで分からない状態でもつれ込んだラン3本目。
そんな3本目で見事なフルメイクを魅せたのがラン2本目も成功させた猪又湊哉。更なるハイスコアの期待がかかった大一番で会場からの大声援を受けた猪又は「キャバレリアル・ハードフリップ」や「アリーウープ・ヒールフリップインディー」など取り入れて自身も納得のフルメイク。
ラン後はボルケーノセクションの上に立ち、観客に向けて拳を突き上げて喜びを表す様子も見られた。このライディングが自身の最高得点69.54ptをマークし優勝に迫る結果となった。決勝では第二走者であった猪又だが3本目のこのライディングが後続の選手に攻めのランを促すようなムードを作り出していたように感じた。
そして今大会の優勝候補でありながらラン1本目・2本目でのミスが足を引っ張り得点に繋がらない中、最後の3本目を迎えた永原悠路。永原は自分のライディングを出し切るように大きなトランスファーからの「フロントサイド・スミスグラインド」を始め、「フロントサイド・クルックドグラインド」、「バックサイド・540」、ハイエアーでの「キックフリップ・インディー」などを次々とメイク。
最後はディープエンドからの「キックフリップ・バックサイドリップスライド」にトライしたものの失敗しフルメイクとはならなかったが、それでも唯一の70点オーバーの70.67ptをマークし最後に優勝を決めた。今回の優勝により永原は国内大会3連覇を果たし、この勢いのまま「X Games Chiba 2023」と来月アルゼンチンで行われる世界大会へ出場する。世界を相手に挑戦し続ける彼の姿を今後も注目していきたい。
優勝者インタビューで今回の雨天延期による1日のインターバルについて聞かれると、永原は「実は決勝はもうやらないと思っていて、準決勝の結果が最終リザルトになると思っていたので準決勝で出し尽くしていました。1日のインターバルで身体面は休められたので良かったですがメンタルを作り直すのが難しかったです。でもやるしかないと思い気持ちを作って臨みました。」と答え、世界で活躍する永原の経験値と、いざという時に気持ちを切り替えられるメンタルの整え方の上手さを感じる発言だった。
フルメイクでなくとも優勝を獲得できたのは、トリックの完成度と高さの差が出たか
そして最後に今回のリザルトで対照的になり気になった人も多いと感じられる、永原がフルメイクではないのに優勝できたことについても触れておきたい。今回のライディングでは猪又が完璧なフルメイクを決めたことで優勝に大きく近づいたのだが、得点としては永原に約1ポイントほど足りず準優勝という結果となった。
当編集部の考察としてはこの違いが生まれたのには各トリックにおけるレベルの違いとハイエアーやライディング全体のフローが関係していると考えている。女子パーク種目でも同様だったが国内の選手が世界で戦うことを意識して、特にハイエアーを高く評価する採点基準になっていたように今大会を見ていて感じた。
今回の永原の優勝を決定づけたのは終盤にミスがあってもそこまでのライディングで70点台の得点を確保できていたからなのかもしれない。
まとめ
今大会も終始、自分のライディングを正確にメイクしながらフルメイクを狙うことができるメンタリティを持っているかが一つ勝利の鍵となっているように感じた。また一方で全体的なトリックの難易度に加えてどれだけハイエアーをしながらトリックがメイクできるかどうかも加点対象に大きく繋がる印象だ。
今回は惜しくも3位に甘んじる結果となった日本を代表する実力者である笹岡の今後の活躍を始め、多久島や西川といった10代の特大ルーキー達が世界でも活躍している年上の選手達に食らいついて更に熱い戦いが見られることを次回以降の大会では期待していきたい。
大会結果
優勝 永原 悠路(ナガハラ・ユウロ) / 70.67pt
準優勝 猪又 湊哉(イノマタ・ソウヤ) / 69.54pt
第3位 笹岡 建介(ササオカ・ケンスケ) / 69.35pt
第4位 西川 有生(ニシカワ・アオ) / 68.86pt
第5位 栗林 錬平(クリバヤシ・レンペイ) / 67.23pt
第6位 天野 太陽(アマノ・タイヨウ) / 65.98pt
第7位 櫻井 壱世(サクライ・イッセイ) / 65.72pt
第8位 多久島 樹(タクシマ・イツキ) / 59.76pt
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